21:35(TOA/ガイジェ)
「大体、時計も見てみろよ。就業時間規定、軍にだってあるんだろう?……九時も半分回って―――外の兵の数も随分少なくなってるみたいじゃないか」
ちら、と部屋に置かれている時計を見てから、自分も驚きながら俺はそう告げた。
少将も大概仕事熱心で、それに長いこと付き合っていた俺も心底馬鹿がつくくらいのお人よしかもしれないが
――――…ジェイドはそれに輪をかけて、仕事熱心…というより仕事馬鹿だ。
こういうのを、ワーカ・ホリック…仕事の虫、とかいったか。
なるほど、今がこの時間なら、軍本部に兵がまばらな訳だ。
あれだけ人が少なかったのは、こんな時間だったからなのだろう。
「―――――…ガイ」
「なんだよ。」
「……非常に不愉快ですが、手伝いなさい」
指先でくい、とカップとソーサーを押しのけると、不機嫌そのものの物言いで、ジェイドはようやく手伝いを『許可』した。
もともと使用人だった俺には慣れた言われ方だが…なんか、このおっさんに限り、素直じゃない態度だと思えて、少しむっとなる。
単に賭けに負けたのが不愉快なのか、俺が陛下の予測どおりにやって来たのが不愉快なのか、それとも俺が本気で心配したのが不愉快なのか。
旦那程難しい思考回路は持っていない俺にとっては分からないが―――――とりあえず、手伝えば少しは気が治まるだろう、と思うことにして、黙ってその『許可』を『ありがたく』甘受する事にしてやった。
何もかもが面白くないおっさんだが、だからといって放っておく事もできないのだ。
でも、そんな旦那が俺を頼るっていうのは、実は悪い気分じゃなかったりする。
それがどうしてなのか、俺にも分からないけど。
いや―――――答えはきっと、互いに既に見つかっているんだが、それはあえて考えないことにしただけだ。
旦那が特別だなんて、俺が口にしたら……俺は今度こそ、旦那に永久締め出しを食らうだろうから。
作品名:21:35(TOA/ガイジェ) 作家名:日高夏