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21:35(TOA/ガイジェ)

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「………………不愉快なのはこっちだって」

心外だ、という風に言うこのおっさんは、やはり分かっていない。
俺だって自分でも驚くくらい、心配したんだ。
手伝おうかと言ったのに逆に迷惑そうに凄まれても、こうしてもう一度見に行っちまうくらい、心配したんだぞ…?
そんな事を考えながらジェイドを見ていたら、ため息混じりに旦那はつぶやいた。

「……こうしてガイがやって来たのも、不愉快なのですよ」

「!それはどういう――――」

「まぁ、最後まで聞きなさい。………私は、コーヒーの件のついでに、別件でも陛下と賭けをしたのです」

つかみかかりそうになった俺を宥めるように苦笑して、ジェイドは至極冷静な声で告げる。
そのすました風な、冷静な態度がいただけない。
怒り心頭、というのがそのまま現れているであろう俺を見ながら、自分の態度が余計俺を怒らせているのを分かった上でなのだろう――――それでもジェイドは態度を変えることをしない。

「コーヒーを断つ事は…まぁ、ものの弾みでしたが。最初は貴方に関する賭けだったのですよ。『ガイラルディアが、誰にでも世話を焼くのか』と」

「……なんだそりゃ」

「……私やフリングス少将とは交流がある訳ですから、私や少将を対象にしても、見かければ世話くらい焼くでしょう、と言ったのですがね。私は特別だと仰ったのです、あの馬鹿陛下は」

まったくもって信じられない、とばかりにため息をついて、ジェイドはカップに残っていたコーヒーの香りがする液体をぐっと飲み干す。
そして無言でそれを俺の手の届くところに置いたもんだから、俺は反射的にそのカップを手にとって、ポットから新しくコーヒーを注いでしまう。
それからジェイドがカップに手を伸ばすより先に、先ほどジェイドがやっていたのと同じように、角砂糖を四つ入れて、混ぜ、生クリームを溶かしこむ。
ルークの破天荒なテーブルマナーだって見てきたのだ、この程度の破滅的飲料なら俺は驚かないし動じない。
だが俺のこの行動に何か問題でもあったのだろうか―――――ジェイドは俺の手元を見たまま、暫時、微動だにしなかった。

「―――――…旦那?」

「……ああ、やはり陛下の勝ちですか。全く」

「だから、どういう勝敗の決し方なんだよそれ」

文句を言いながら、俺はそのカップを旦那の手に届きやすい場所に、音を立てないように静かに置く。
俺が混ぜたから、ソーサーにはもうスプーンは置いていない。
それを逡巡の後にとると、ジェイドは無言でそれを飲んだ。
なんだ、文句はないんじゃないか。
ていうか、世話は焼くが特に誰が相手だとか誰が特別だとか、意識している訳じゃあない。
そのせいだろう、陛下の賭けの意図も意味も、俺にはいまいちよく分からなかった。

「―――――で?アンタが賭けをしていたことは分かったが、心配かけたって謝罪はないのか?」

「…………心配、とは」

「陛下が事前に手を回してはいたようだがな、アンタは仕事を詰め込み過ぎだ!!少将に始まり、部下…っつか見張りまで、アンタが倒れたんじゃないかって慌ててたんだぞ」

「しかし、私は」

「無理をしているつもりはない…って言うつもりか。コーヒー断ちで仕事続行してぶっ倒れそうになって、それでも言うか?」

「……………」

さすがに大人しくなった旦那を前に、俺はまくしたてるようだった語調を少し緩めて、

「なぁ、俺だって心配してたんだぞ?――――頼むから、少しくらい頼ってくれ」

言い切ると、旦那は俺をじっと見て――――それからまた、コーヒーを一口。
そしてかちゃり、と音を立ててソーサーに戻す。
味に文句はないのだろう、妙に満足げな表情に見えるのは―――俺の気のせいなのだろうか。
そんなどうでもいいことを考えながら旦那の様子を観察していたら、唐突に旦那はこっちを見た。

「コーヒー。…今のように、少将にも入れますか?私が入れていたのを見て、カップが空いたのを見計らって、同じように入れますか?」

「………えっと」

それはさすがに答えに詰まった。

「それから、貴方は先日勝手に私の仮眠室の掃除とソファーカバーの洗濯をしましたね」

「あぁ…ホコリっぽかったから、つい」

「あと、インク壷に新しくインクを追加しておいたのも、貴方ですか」

「そうだが」

「…………では」

「―――――こないだアンタがうたた寝してたのを最初に見つけて、毛布かけたのも俺だ。」

だって、見つけちまったから、そのまま放ってはいけないだろうよ。
確認のように続く質問に、俺は全部答えてやる。
俺にとってはとにかく、そんな些細な事よりも、旦那の不摂生と周囲へ心配をかけた事に対する怒りが最優先だった。
だがしかし、ジェイドの旦那にとっては俺の言った事の方が問題だったらしい。

「………、私が先ほど言ったこと、覚えていないでしょう」

「陛下と賭けをしたんだろう?俺が誰にでも世話焼くのかって。ごらんの通り、性分で――――」

「性分で、私の部屋にばかり押しかけるのですか、貴方は」

「!」

そこまで言われてようやく、俺は旦那が呆けている理由に思い当たってしまった。
そうだ、俺は全部自分から今、言っちまったじゃないか。

「フリングス少将や陛下には、仕事以外ではそうしたことはしないでしょうに―――――ああ、やはり陛下との賭けは負けだ」

「………」

また、ぐいっと一気にコーヒー的液体を飲み干したジェイドの喉を見ながら、俺は何も言い返せずに黙るしかなかった。

「私はほとんど、貴方に雑務を要求したことはありませんから」

あの陛下のように、と付け足してから、ジェイドはカップを乱暴にソーサーに戻す。
そしてそのカップにまたコーヒーを注ごうと伸びた自分の腕を見て――――俺は確信してしまった。
これは…この行動は、全部無意識だった、と。


確かに、他の人間よりも雑務を頼まれてはいたが、他の、旦那と同じ階級であろう軍人より、ジェイドが頼む雑務の量は少ない。
一見人がよさそうで、あまり他人に仕事を手伝わせるのをよしとしなさそうなフリングス少将でさえ、俺の手伝いをありがたがって、色々と頼むのだ――――それだけでも、ジェイドがどれだけ一人で頑張り過ぎているのか、推し量れるというもの。

「……負けたくなくて、貴方を入室禁止にしたというのに。それでも入ってくるし……全く、貴方には困ったものです」

「それは、陛下が許可を」

「…………やはりあの馬鹿の仕業でしたか」

ち、という音が聞こえてきたかと思うと、今度はじろ、とこちらをにらみつけてくる。

「―――――だが賭けは知らなかったぞ。心配だったのは……俺の、本心だ」

「…………………………」

「だからジェイド、少しくらいは俺に手伝わせろよ」

緩むことのないその視線は、ちくちくと痛む。
だけど、人の後押しがあったとはいえ、俺が言った事は真実…本当のことだ。
これは、譲れない。
一般的にこういう感情がなんていうものなのか、俺にはよく分からないが――――とりあえず、心配で、目が離せない。
それだけだ。
今はそんなことに思索を巡らせるより、どう旦那を宥めて仕事量を軽くするかの方が重要だ。
作品名:21:35(TOA/ガイジェ) 作家名:日高夏