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C78新刊サンプル(ほとんど無害!(下))

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第七章 サンダイバーより冒頭


 黒い砂をはき、大型の化け物を現出させた真里野剣介は、いっかな意識を取り戻す気配を見せなかった。皆守の手で葉佩の部屋へと運ばれている間も、葉佩の手で身体を拘束されている間も、細く微かすぎる呼吸に変化はなく、指先一つ動くことはない。両の親指と膝を拘束し床に転がしたところで、葉佩はほっと息をはいた。ある意味、時間との勝負に勝ったとも言える状況だった。
「わるいな、待たせて」
 そう言って葉佩は、部屋の入り口につったってじっと彼の所作を見ていた皆守に頭を下げた。そして、つきあわせた礼とあとは一人でなんとかなるからということを口にする。目を細めて葉佩の言葉を聞いていた皆守は、直接な答えを返さず、軽くあごをしゃくった。
「座れ」
 何のことだと首をかしげる葉佩に対し、次はオマエだろうと口にする。
「傷が開いてるんじゃないのか」
 皆守の言葉どおり、葉佩の周囲には強い血臭が漂っていた。出所は明らかだ。葉佩の脚の怪我だ。《墓》の守護者との戦いが終わった時点で、軽い手当ては行った。とはいえ、その手当てと言うのは、注意深い応急処置とは程遠い適当さでテープをぐるぐると巻きつけただけだといった代物だ。本当にそれで《墓》を上るのかと、同行者たる八千穂と皆守が目を丸くするほどの大雑把さだった。
 葉佩は、ちらりと意識を失ったままの真里野を見た。様子が変わらないのを確認すると、そろそろとベッドに腰を下ろす。皆守は、いかにも面倒そうな様子で、その前に膝をついた。
 適当に、だがきつく巻かれたテープに伸ばされた手を、葉佩は遮った。
「自分でする」
 しばしその言葉の意味を検分するかのように、皆守は無言で葉佩を見上げていた。やがて、小さくためいきをつくと手を引き、立ち上がる。どうもと笑みを浮かべ、葉佩は皆守に、本棚の中ほどにある金属製の箱を取ってくれるようにと頼んだ。
 一見、工具箱のように見えるそれを受け取ると、葉佩はとっての中ほどに親指を押し当てた。
 静か過ぎる部屋に小さな開錠音が響いた。葉佩は、中から金属性のスプレーとウエットティッシュの包みのようなものを取り出した。そして、傷を抑えるテープを剥がして、ボトムを脱ぐ。血の臭いが強くなる。怪我の様子をのぞきこみ、皆守は顔をしかめた。
「……縫わなきゃいけないんじゃないのか」
 骨こそ見えないものの、太腿の中ほどにぱっくりと口を開いたそれは、素人目にも医者が必要な怪我のように見えた。今まで抑えていたテープがなくなったからだろう。葉佩の鼓動にあわせ、新たな鮮血がどくどくと溢れてはじめた。
 しまったベッドが汚れるとのんきに口にしていた葉佩は、皆守の言葉に大丈夫だとうけあう。
「慣れてるし」
「慣れてるだけで身体が丈夫になるんなら、病院なんかいらないだろうが」
「そうともいう」
 多少の理由はあるから、と。そう言って、まずはひどい方からと手にしたスプレーを怪我に向けて噴霧した。さすがに表情を歪める葉佩に、皆守はスプレーをとりあげた。そして、満遍なくふきつければいいのかと尋ねる。
ほとんど無害!
その言葉に、声もなく頷くのを確認すると、脚をおさえつけ、容赦なくスプレーを使った。
「……おい」
 一通り終わったところで、皆守は葉佩に声をかける。小刻みに震えるばかりだった葉佩だったが、しばし後には顔を上げ、もういいと口にした。
「ありがとう」
 そう言って、おそるおそるという表情で、自らの傷口を改める。そして、服の繊維やその他異物がないことを確認すると、ウエットティッシュもどきの封を切った。そして、中からゼリー状の物体を取り出すと、傷口をなるべくあわせるようにして、その上にかぶせる。みるみるうちに赤く染まるそれを見、ほっと息を吐いた。
「あ、ちょっと端っこたりないし」
「反対もか?」
 ひどいとかなんとか口にしている葉佩に対し、皆守はそう尋ねてスプレーをふってみせる。葉佩は頷いた。だが、実際に皆守が作業に移ろうとしたところで、その手を抑えた。眉を寄せる皆守に対し、床の真里野に向かってあごをしゃくってみせる。
「お目覚めだ」
 葉佩の言葉にこたえるかのように、びくりと後ろ手に拘束された腕が震えた。
「一応、そう簡単には切れないと思うけど力試ししてみる?」
 自らが拘束されているという事実に表情を歪める真里野を見下ろし、葉佩はようと声をかけた。
「……くっ、卑怯な!」
 真里野の体勢では、葉佩と皆守の足を見るのがせいぜいだろう。さして頑丈にがんじがらめにされたわけではないとはいえ、ツボを抑えたそれは、彼から床で芋虫のように身をくねらせるという選択肢以外を奪っていた。
 正々堂々と勝負しろと叫ぶ真里野に対し、葉佩はあっさりとノーをつきつけた。
「勝負は終了。今は尋問の時間」
 そう言ってから、幾度か瞬きすると、少し待つようにと告げる。そして、皆守からスプレーをとりあげ、いくらか動作をはしょりつつも、未だ手付かずだった側の怪我に同じように治療を施した。葉佩のそのさまを余裕と見たか、真里野の顔がカッと紅潮した。
「貴様!」
「黙れ。さて、まずは一つ。雛川先生をどうした。さらに、なぜ彼女に勝負を挑んだ? おれが聞きたいのはこの二つだ。それ以外のごたくは自分の命を縮めるものと思え」
「貴様などに話すことなどない!」
「立場、わかってないなー」
 そう言って、葉佩は肩をすくめた。そして、ベストから銃を取りだし、わざとらしいまでにゆっくりと撃鉄を起こしてみせる。
「聞こえたかな。その状態でよけられる? そりゃあね、ぼんのくぼを狙えば、死に物狂いで逃げればはずすかもな。でも、おれはそんなとこは狙わない。別に即死させる必要はないしな」
 痛いよ、と。むしろ優しいともいえる口調で口にすると、葉佩は再度尋ねた。
「雛川先生は? そして、なぜ彼女なんだ?」
「そのような卑怯な手段に屈するくらいならば、自ら腹を切る!」
 そう言いきる言葉の確かさに、葉佩はひゅうと口笛を吹いた。わざとらしい片言で、オウ、サムライダマシイと口にしてから、皆守にこれであってるかと尋ねた。皆守は無言で肩をすくめた。
「卑怯00な手段は他にもあるけどなー」
 どうしようかなーと首をひねる葉佩に対し、皆守はただ一言、手紙はと口にした。葉佩はちらりと皆守を見た後、頷いた。
「ヘイ、サムライボーイ。これはおまえの《宝》か?」
 半ば揶揄するような口調でそう口にすると、葉佩は《墓》で得た古びた手紙をひらりと真里野の前にたらした。
 眼帯に覆われていない目が大きく見開かれる。こくりと、真里野の喉が動いた。
「それは……」
「雛川先生をどうした、彼女は今どこにいる? ……なぜ、あんな大人しそうな子に決闘を挑んだ?」
 手紙を注視したまま呆然とする真里野に対し、葉佩は催眠術師のように静かに囁いた。
「……それを渡してくれ」
 先ほどまでとは、まるで別人のようなしおらしさだった。己の負けを口にし、頭を垂れる真里野の様子に、葉佩は微かに眉を寄せた。
「もはやこれまで。以後、この剣はお主のもの。何らかの力を必要とするならば、必ず力となろう」
 あまりに急激な態度の変化だった。あまりに急すぎるがゆえに、思惑を疑うは必至だった。