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C78新刊サンプル(ほとんど無害!(下))

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「その前に、雛川先生のことと、オマエが決闘を申し込んだ相手のことだ」
 ゆっくりと、葉佩は同じ問いをくりかえす。真里野は目を伏せ、長く息を吐いた。
「雛川殿については、本当に心当たりがない。昨日、授業をうけたきり、かれこれ丸一日以上姿を見てもいない。七瀬殿については、純粋に手合わせを試みたいと思う相手であったからこそ挑んだ」
 《墓》で彼が口にした言葉と何一つ変わらなかった。真実をはかるかのように、葉佩はじっと彼を見つめた。真里野は口を閉ざし、言葉を重ねようとはしない。葉佩は、自らが手にしている真里野の《秘宝》を見た。
 葉佩はひとつためいきをついた。そして、動くなと真里野に告げてから、戒めを切断する。その様を見、皆守はほんの少し目を見開いた。葉佩は無言で真里野に手紙を差し出した。真里野は震える手でそれを受け取る。一筋の涙が頬を伝った。今までと全く同じだった。



 もう帰ってもいい、と。どこか疲れた様子で、葉佩は真里野にそう告げた。真里野は丁寧に手紙を懐にしまいこみ、かたじけないと頭をさげる。そうやって葉佩の部屋を出ようとしたところで、真里野はそういえばと口にした。
「貴殿、《幻影》と名乗る輩を知っているか」
 葉佩は顔を上げ、真里野になんのことだと聞き返した。真里野は一つ頷いてから、口を開いた。
「知っての通り、拙者は《生徒会執行委員》の任についていた。人によっては《生徒会執行委員》とは当たるを幸い、気に入らない人間を夜闇にまぎれて全て始末する存在であるかのように思っているようだ。だが、少なくとも拙者は、そのようなことに加担していたつもりはない」
 真里野の言葉に、葉佩は眉を寄せた。その表情に気づいたのだろう。どうかしたかと真里野は首をかしげる。小さく首を左右にふり、続けてくれるよう促した。
「うむ。《生徒会執行委員》が処断するは、学園の秩序を乱す者。けして無力な仔羊をいたぶり、狩るわけではない」
 葉佩は口を開きかけ、閉じる。真里野の言葉は、七瀬に決闘をもうしこんだ彼の行動とは矛盾しているように聞こえた。取手や椎名、朱堂や肥後の行動と照らし合わせても、そうではないと言い切る気にはなれなかった。だが、ひとまずは《幻影》という聞きなれない輩に対する情報が先だった。
「《幻影》とかいう輩は、この学園の闇に潜む存在だと自らを称した。闇より出で、光の下に存在するはかなわぬも、心よりこの学園に正しき姿を取り戻すを望むと」
「正しき姿?」
「有体に言えば、《生徒会》による支配のない学園ということらしい」
「つまり、アンタに《生徒会執行委員》をやめてしまえと説得していたのか?」
「そうではない。《幻影》とやらに言わせると、学園の不穏分子に《生徒会》もまた含まれる、と。そういうことらしい」
 真里野の言葉を、葉佩は幾度か口中でくりかえした。
「ずいぶんとおかしな勧誘だな」
 全くその通りだ、と。そう真里野は葉佩に賛同した。確かに組織を瓦解させるために、内部の人間の裏切りをさそうというのは、ごくポピュラーな手段だ。しかし。真里野はユダたるにふさわしい人物なのだろうか? 少なくとも、今までの語り口を聞く限り、彼はどちらかというと《生徒会》がわの理論を受け入れているように見える。その彼に向かって、彼の属する組織を叩けとは、あまりに標ターゲット的を間違えてはいないだろうか。
「他の《生徒会執行委員》……っと、そうか、わからないか」
 他の構成員について尋ねかけ、葉佩はがりがりと頭をかきまわした。《生徒会執行委員》の横のつながりは存在しない。《墓》でうっかり鉢合わせでもしない限り、お互いがそうであると見わける手段すら持ち合わせていないのだ。少なくとも、葉佩はそう聞いていた。
「うむ。拙者以外の《生徒会執行委員》が同様の勧誘を受けていたかはわからない。ただ――」
「《生徒会》そしておれ以外の異分子、か」
 そう呟いてから、葉佩は眉を寄せた。そして、苦虫を噛み潰した表情のまま、まさかあれじゃあないだろうなと口にする。その呟きを聞きつけた皆守が、ひーちゃんのことか? と、否定のニュアンスをこめた問いを発する。それには答えず、葉佩は真里野に対し《幻影》についてさらに問いを重ねる。
「順番が前後するけど、その《幻影》ってのは姿を見せてたのか?」
「見せていたと言えば見せていた。白い仮面とマントを身につけた男が、常に我が剣の間合いから若干離れた場所から語りかけてきた。少なくとも、足はあるように見えたな」
「一応、人間さまくさい、と。まぁ、そんなことするのは人間さまに決まってるか。その男ってのは何でそう思った?」
「声だ」
 なるほど、と。真里野の言葉に、葉佩は幾度か頷いた。
「ぶっちゃけ、《幻影》が提示したエサは何だ。あるべきすがたを取り戻すべきという、正義感だけか?」
 葉佩の言葉に、真里野はほんの少し口を開くことをためらった。葉佩の目が細められる。少し遅れて口にされた真里野の言葉は、あまりに短かった。
「力、だ」
「力?」
 おうむがえしの葉佩の問いに、真里野は小さく唸った。
「己の力を試したくはないのか、と。無力な一般生徒を狩ることで、オマエは満足できるのか。オマエの《力》をはかるには、一般生徒はもとより、《生徒会執行委員》相手でも不足。そう、《生徒会役員》を倒してこそ、真の強さをはかることができる」
 だから、と。そう言って、真里野は一度、大きく息を吸い込んだ。
「だから拙者は、七瀬殿との手合わせを望んだのだ。拙者は――《幻影》に言われたからというだけではなく、自負していた。我が剣には、一般生徒はもちろん、《生徒会執行委員》相手でも不足。《生徒会役員》であったとしても、けして遅れをとることはない、と。そんな拙者を、七瀬殿は一撃の下に下した」
 そこまで言うと、真里野はためいきをつく。真里野の言葉に、葉佩は思わず皆守を見た。皆守もまた、驚いたような表情を浮かべているばかりだった。七瀬、と。葉佩の唇が動く。それを見て取り、皆守は眉を寄せ首をよこにふった。
「拙者はただ自分の《力》をはかることばかりに執着していた。上には上がいる、剣とは己との戦いであると自らに言い聞かせつつも、本心では自分が強いということに酔っていたのだ。おぬしが取り戻してくれたこの《宝》がなければ、拙者は未だ拙い剣をふりまわすばかりであったことだろう」
 そう言って、真里野は一度自らの懐を見下ろした。そして面を上げ礼を口にするさまを、葉佩と皆守はただ無言で見守った。



 一通り真里野の話を聞き、彼を帰らせたところで、葉佩は上品とはとてもいえない単語を吐きすて表情を歪めた。それきり彼は動こうとはしなかった。しばしの後、皆守が声をかけると、大きく肩が震える。まるで、皆守の存在を忘れていたかのように見えた。
「……気持ち悪い」
 葉佩は歯の隙間からむりやり言葉を押し出した。何がそうなのかと尋ねる皆守に対し、ぎゅっと眉を寄せ、拳を握る。皆守のほうを向かないままに、葉佩は低くこたえた。