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Émile

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 こいつの頭に手を置いたら、どんな顔をするだろうか。らしくない悪戯心を抑えるのに、さほど苦労はしなかった。ヘソを曲げられては、組織の利を損なう。何より隣に控えている秘書に、俺が磔にされかねない。
「…じきに、埋め合わせはしよう」
「何の話だ?」
 ジロリと睨めつけられる。足止めの件ではない、もっと前の文脈から滲んだ後ろめたさを、しっかり汲まれてしまったらしい。
 しかし、こういう反応もするのか。何を言われようがあくまで無視して、実力で黙らせるというような主義なのかと思っていたが。

「…まあ、気にすることはない」
 余計な言葉は重ねない方がいいな。そう決意したところで、神堂が視線を合わせないまま、妙に平板な声で言った。

「そのうち、お前も抜く」
 …それはどうだろう。言葉にする代わりに、いつもの皮肉めいた笑いが漏れてしまった。

 扉が開くや否や、コンマ一秒すら惜しいというように、神堂は開発室に向かって歩を進める。遠ざかる背、表情はわからないが、いよいよ馬鹿にされたと取られてしまっただろうか。
 これはしばらく、取引が面倒になるかもしれんな。機嫌を取る方法を考えそうになる自分に、苦笑いする。

 おこがましい連想だった。あいつはやはり子供だが――同じ年頃の俺なんかよりは、ずっと優秀なのだ。





 了
作品名:Émile 作家名:320