二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」
くさんちっぺ
くさんちっぺ
novelistID. 1398
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

猫は負けて死なない

INDEX|1ページ/2ページ|

次のページ
 
がらんとした部屋の真ん中で、少年が一人丸まっている。それなりの容姿と、それなりの身長と、それなりの能力を備えた少年である。尤も、そのどれをとっても、そう簡単には手に入らない水準の「それなり」ではある。
彼はフローリングの床に頬をこすりつけたまま、少し離れた場所に落ちている奇妙な物体を睨み付けた。
彼の前にあるそれは、とある物語のラスト・ボスである。厳密には真のラスト・ボスが他に存在するのだが、とにかく今の所それはとある物語のラスト・ボスである。
「…ねぇ」
少年は『彼』を指先で軽くつつく。
「起きてる?」
物体は反応しない。少年は意に介さず、物体を自分のくちもと近くに引き寄せた。ほとんど唇の動きだけで囁く。
「ねえ、君は、負けるよ」
一瞬で室温がぐんと下がった。その物体の中にいるいきものが、ちゃんと話を聞いている証拠だ。
彼は小さく身震いしたが、表情にも態度にも変化はなかった。ただ、君は負ける、と繰り返した。
「もう気付いてるんだろう?どんなに頑張って準備をして、どんなに有利な状況を用意しても、君の勝ちはない」
彼はゆっくりと寝返りをうち、物体を胸の上に乗せた。薄いシャツの上からでも、金属の容赦ない冷たさと、ずしりとした重みが伝わってくる。
「君本当はもう諦めてるだろう。それでも最後に大輪の花火でも咲かせて散ろうって?そんなことするくらいなら安らかに逝きなよ。誰にも迷惑なんかかけないでさ。大体、他人の墓で死ぬなんて、下品だと思わない?」
ぺらぺらぺら、と流れ出るように、少年は普段からは考えられないスピードで喋る。それに応えるように、気温はどんどん下がっていく。
「少し考えれば、もっと上手く死ねる。誰にも知られず、誰からも忘れられて、たったひとりで死ぬんだよ」
少年ははじめて、ほんの少しの笑みをみせた。
「猫のようにね。」
猫が独りで死ぬのは、人間が思うような哲学的な理由からではない。猫は死に瀕すると、外部から何らかの攻撃を受けていると勘違いして、安全な場所に身を隠すのだ。そしてたいていの場合、そのまま死んでしまう。
猫は人間に飼われていても孤高だなどと、人間は勝手な勘違いをしている。
死の恐怖を知る生き物は、三千年前からずっと人間だけだ。ラスト・ボスはそのことをとてもよく知っている。