猫は負けて死なない
少年はその物体を胸の上に乗せたまま、静かに目を閉じた。その瞬間、彼はラスト・ボスの共犯者となる。
「おやすみ、…もう一人の、僕」
彼の中の寄生虫が、ゆっくりと首をもたげていく。
交代してしまったが最後、その物体の中身は二度と帰って来ないだろう。
なぜならそれは、負けて死ぬのだ。
「…さようなら。」
一つの物語が終わり、ラスト・ボスは死んだ。少年は、まだ生きている。
ラスト・ボスを倒した主人公たちはみんな幸せそうだ。今度こそ真っ当に学校生活を謳歌している。少年自身も、何の違和感もなくそれらの日常に溶け込んでいる。
やがて高校を卒業し、就職なり進学なりを経て、彼らはみな社会に出てゆく。
数年後、同窓会の幹事が、名簿のは行に彼の名前を見つけた。顔をおもいだそうとするがうまくいかない。電話をかけてみるがつながらない。
当時のクラスメイトの誰に聞いても、彼の行方を知る者はいない。かの物語の主人公たちですら、ラスト・ボスの事はよく覚えていても、その共犯の少年についてはほとんど何も知らないという。
彼は消えてしまった。
猫のように、消えてしまった。