彼らと取り巻く彼らの思惑
「いったいなぁ……」
走り去っていったロヴィーノの足音が自室に消えていった頃に漸く椅子から立ち上がったアントーニョは後頭部を撫でさすりつつ、椅子を定位置に戻した。
「あーあ、瘤んなってもうたやん」
テーブルの上には残りのトマトケーキ。
「ロディ、食べるかなあ。食べへんよなぁ」
食の好みに五月蝿いし、新しいものにすぐ飛びつくわけでもないし。唇をごしごしと拭って、アントーニョは溜息をついた。
「ロディが、ロヴィーノみたいにちょろかったらええのになあ」
したら、こんなに好きにならんかったかもしれんけど、と呟いてふと、アントーニョは携帯を見た。メールも着信も未だない。こちらからの連絡に返答することはあっても、彼から連絡をとってくることは、あの日から一度だってないのだ。
撫でるように携帯の白いメタリックのボディを撫でる。アントーニョはふわりとわらった。
「なぁロディ、連絡してきぃ。それまでずっと待っとるから」
アントーニョは愛しげに呟いて、携帯にまるで神聖なものに触れるかのように恭しくはくちづけた。
作品名:彼らと取り巻く彼らの思惑 作家名:はな