キミの旋律番外編
「キミの旋律」番外編 ~はじめてのおつかい~
昼食の後、メイコとミクと三人で、洗い物をしていたら、マスターが突然、
「カイト、買い物に行こう」
「・・・は?」
思わず、拭いていた皿を落としそうになる。
「ちょっとカイト!お皿気をつけてよ!!」
「え!?あ、ああ!」
メイコの声で我に返って、慌てて持ち直した。
「えっと、あの、マスター?買い物って・・・」
「やだ?」
「え!?あっ、いえいえいえ!嫌じゃないです!!ただ、ちょっとびっくりして・・・」
「マスター、私は?」
ミクが、期待を込めた目でマスターを見るが、
「ミクじゃなくてカイト。ミクは留守番してて」
マスターに、あっさり拒否される。
「でも、なんでカイトだけなんですか?私だったら、特に準備しなくても出掛けられるのに」
メイコが不満そうに聞くと、マスターは首を振って、
「荷物持ってもらいたいから。メイコだと目立つし」
「大丈夫ですよ!私とマスターなら、姉と弟みたいだし!」
メイコの言葉に、マスターは首を傾げて、
「似てないから」
あっさり却下した。
「じゃ、カイト、一度パソコンに戻って」
「あ、はい」
俺は、すっかりふくれているミクに、「マスターの言いつけだから」と言い訳して、フキンを押し付けると、小走りでマスターの部屋に戻る。
マスターと外に!一緒に出掛ける!!
荷物持ちだろうと構わない。
いつもメイコばかりが一緒で、俺やミクは、マスターと出掛けたことなど、唯の一度もない。
その理由は、「目立つから」。
でも、俺達の姿は、あくまでマスターのイメージによって作られているので、マスターさえその気になれば、いくらでも変えられるのだけれど。
「外見を変えるのが面倒臭い」という理由で、いつも留守番させられていたのに。
いつも、帰ってきたメイコの話を聞かされるだけなのに。
はやる気持ちを抑えて、俺は、パソコンの中に戻った。
「カイト、いーいー?」
ほどなくして、マスターの声が聞こえる。
「大丈夫です」と答えると、体がふわりと持ちあがる感覚。
!?
ほんの僅かなひっかかりを感じて、思わず目を閉じた。
「大丈夫?」
マスターの声に、恐る恐る目を開けると、
「えっ!?あれ!?マスター!?おかしいです!!視界が茶色です!!」
驚きのあまり声を上げると、マスターが、
「サングラス。似合ってるね、カイト」
・・・へ?
マスターに言われて、顔に手をやると、眼鏡のふちに指が触れる。
そーっと外してみれば、薄い茶色のレンズが嵌った眼鏡だと分かった。
「あの・・・マスター・・・?」
「髪と目の色だけだと、気づく人がいるかもしれないでしょ?念には念を入れてみた」
「はあ・・・」
改めて自分の体を見下ろすと、服装も変わっている。
何時ものコートとマフラーではなく、ラフなシャツとデニムになっていた。
マスターが差し出した鏡をのぞけば、髪と目の色が黒に変更されている。
「何か・・・不思議な感じがしますね」
「嫌なの?嫌なら、無理には」
「え!?ち、違います!!嫌じゃないですよ!!ただ、その、見慣れないというか・・・」
「うん。あの格好じゃあ、外出れないでしょ?」
確かに。
大体、バトル以外で実体化してるなんて知れたら、大騒ぎになってしまう。
ただでさえ、マスターは、目立つのが嫌いなのに。
「じゃ、行くよ」
「はい。あ、マスター、これ」
俺は、机の上に置いてあった、携帯音楽プレーヤーを手に取って、マスターに差し出すが、
「うん、今日はいい」
マスターは首を振って、机に戻しといて、と言った。
「はあ・・・」
外に出る時は、必ず持っていくのに。
マスターがいいと言うのなら、いいのだろうと、俺は、携帯音楽プレーヤーを元の場所に戻した。
「マスター、今日は何を買いに行くんですか?」
「肥料。そろそろ、花壇の植え替えもしないとね」
庭の手入れは、マスターの担当。
植えてある植物と話しながら、色々決めているらしい。
「今度は、何を植えるんです?」
「んー。まだ決めてないけど。また、一年草にするかもね。周りがうるさいから」
周り・・・古株の木とか、多年草のことか。
何時も、ぶつぶつ言いながら手入れしてるけど。
「わがまま言うんですか?」
「そうでもないよ。まあ、カイトほどは、聞きわけてくれないけど」
え?
マスターは、首を傾げて、
「どうしたの?」
「あ、いえ、何でもありません」
マスターの言葉が嬉しいのと照れくさいのとで、俺は、眼鏡を直す振りをした。
近所のホームセンターにつくと、マスターは早速、ポット苗を物色する。
「苗も買いますか?」
「ううん、今日は買わない。うん、今日は連れて帰らないよ。ごめんね」
前半は俺に。後半は苗に。
俺にとっては見慣れた光景だけど、隣で苗を選んでいた年配の女性が、訝しげな視線を向けていた。
マスターは、気にする様子もなく、今度は球根売り場に行く。
「球根って、喋りますか?」
「ううん。寝てるからね」
「ああ、そうですよね」
マスターは、球根をそっと置くと、店内に向かった。
「あれ?マスター、肥料は外の売り場ですよ?」
「うん、知ってる」
それでも、マスターは店の中に入っていったので、俺も後を追う。
「シャンプーの詰め替えがなくなりそうだから、買っておこうか」
「はい」
「きょろきょろしてると、迷子になっちゃうよ?」
「あ、す、すみません」
慌ててマスターの隣に並ぶと、マスターはちょっと笑って、
「冗談だよ。カイトの居場所は、すぐ分かるから」
「え?」
「はぐれても、ちゃんと迎えに行くから。心配しないで」
「え、あの・・・・・・はい」
シャンプーとリンスの詰め替えを買うと、マスターは再び外に出ていった。
「ちょっと重いけど、2kgの買っていい?」
「いいですよ。大丈夫です」
マスターには、ちょっと重い荷物を、俺は腕に抱える。
こんな時、自分が男性型でよかったと思う。
マスターの役に立てる。マスターが、俺を頼ってくれる。
それが、何より嬉しい。
レジを済ませて、マスターと家路についた。
「そこに置いといてくれる?後でするから」
「はい」
家に帰って、まず肥料の袋を、庭に置く。
「ありがとう。カイトが一緒に来てくれて、助かった」
「俺も、マスターと出掛けられて、楽しかったです」
「そう?それは良かった」
そう言ってから、マスターは欠伸をして、
「ちょっと眠い」
「少し横になってください、マスター。俺が起こしますから」
「うん、ありがとう」
家の中に入ると、マスターのお姉さんが、一人でお茶を飲んでいた。
「ただいま」
「ただいま戻りました」
マスターのお姉さんは振り向くと、
「お帰りー。何買ってきたの?」
「肥料。後、シャンプーとリンスの詰め替え」
「ありがとー。助かる」
マスターは、リビングを見回して、
「メイコとミクは?」
「拗ねてパソコンに戻ってる」
「そう。分った」
「マスター、これ仕舞ってきますね」
俺が、詰め替え用を示すと、
昼食の後、メイコとミクと三人で、洗い物をしていたら、マスターが突然、
「カイト、買い物に行こう」
「・・・は?」
思わず、拭いていた皿を落としそうになる。
「ちょっとカイト!お皿気をつけてよ!!」
「え!?あ、ああ!」
メイコの声で我に返って、慌てて持ち直した。
「えっと、あの、マスター?買い物って・・・」
「やだ?」
「え!?あっ、いえいえいえ!嫌じゃないです!!ただ、ちょっとびっくりして・・・」
「マスター、私は?」
ミクが、期待を込めた目でマスターを見るが、
「ミクじゃなくてカイト。ミクは留守番してて」
マスターに、あっさり拒否される。
「でも、なんでカイトだけなんですか?私だったら、特に準備しなくても出掛けられるのに」
メイコが不満そうに聞くと、マスターは首を振って、
「荷物持ってもらいたいから。メイコだと目立つし」
「大丈夫ですよ!私とマスターなら、姉と弟みたいだし!」
メイコの言葉に、マスターは首を傾げて、
「似てないから」
あっさり却下した。
「じゃ、カイト、一度パソコンに戻って」
「あ、はい」
俺は、すっかりふくれているミクに、「マスターの言いつけだから」と言い訳して、フキンを押し付けると、小走りでマスターの部屋に戻る。
マスターと外に!一緒に出掛ける!!
荷物持ちだろうと構わない。
いつもメイコばかりが一緒で、俺やミクは、マスターと出掛けたことなど、唯の一度もない。
その理由は、「目立つから」。
でも、俺達の姿は、あくまでマスターのイメージによって作られているので、マスターさえその気になれば、いくらでも変えられるのだけれど。
「外見を変えるのが面倒臭い」という理由で、いつも留守番させられていたのに。
いつも、帰ってきたメイコの話を聞かされるだけなのに。
はやる気持ちを抑えて、俺は、パソコンの中に戻った。
「カイト、いーいー?」
ほどなくして、マスターの声が聞こえる。
「大丈夫です」と答えると、体がふわりと持ちあがる感覚。
!?
ほんの僅かなひっかかりを感じて、思わず目を閉じた。
「大丈夫?」
マスターの声に、恐る恐る目を開けると、
「えっ!?あれ!?マスター!?おかしいです!!視界が茶色です!!」
驚きのあまり声を上げると、マスターが、
「サングラス。似合ってるね、カイト」
・・・へ?
マスターに言われて、顔に手をやると、眼鏡のふちに指が触れる。
そーっと外してみれば、薄い茶色のレンズが嵌った眼鏡だと分かった。
「あの・・・マスター・・・?」
「髪と目の色だけだと、気づく人がいるかもしれないでしょ?念には念を入れてみた」
「はあ・・・」
改めて自分の体を見下ろすと、服装も変わっている。
何時ものコートとマフラーではなく、ラフなシャツとデニムになっていた。
マスターが差し出した鏡をのぞけば、髪と目の色が黒に変更されている。
「何か・・・不思議な感じがしますね」
「嫌なの?嫌なら、無理には」
「え!?ち、違います!!嫌じゃないですよ!!ただ、その、見慣れないというか・・・」
「うん。あの格好じゃあ、外出れないでしょ?」
確かに。
大体、バトル以外で実体化してるなんて知れたら、大騒ぎになってしまう。
ただでさえ、マスターは、目立つのが嫌いなのに。
「じゃ、行くよ」
「はい。あ、マスター、これ」
俺は、机の上に置いてあった、携帯音楽プレーヤーを手に取って、マスターに差し出すが、
「うん、今日はいい」
マスターは首を振って、机に戻しといて、と言った。
「はあ・・・」
外に出る時は、必ず持っていくのに。
マスターがいいと言うのなら、いいのだろうと、俺は、携帯音楽プレーヤーを元の場所に戻した。
「マスター、今日は何を買いに行くんですか?」
「肥料。そろそろ、花壇の植え替えもしないとね」
庭の手入れは、マスターの担当。
植えてある植物と話しながら、色々決めているらしい。
「今度は、何を植えるんです?」
「んー。まだ決めてないけど。また、一年草にするかもね。周りがうるさいから」
周り・・・古株の木とか、多年草のことか。
何時も、ぶつぶつ言いながら手入れしてるけど。
「わがまま言うんですか?」
「そうでもないよ。まあ、カイトほどは、聞きわけてくれないけど」
え?
マスターは、首を傾げて、
「どうしたの?」
「あ、いえ、何でもありません」
マスターの言葉が嬉しいのと照れくさいのとで、俺は、眼鏡を直す振りをした。
近所のホームセンターにつくと、マスターは早速、ポット苗を物色する。
「苗も買いますか?」
「ううん、今日は買わない。うん、今日は連れて帰らないよ。ごめんね」
前半は俺に。後半は苗に。
俺にとっては見慣れた光景だけど、隣で苗を選んでいた年配の女性が、訝しげな視線を向けていた。
マスターは、気にする様子もなく、今度は球根売り場に行く。
「球根って、喋りますか?」
「ううん。寝てるからね」
「ああ、そうですよね」
マスターは、球根をそっと置くと、店内に向かった。
「あれ?マスター、肥料は外の売り場ですよ?」
「うん、知ってる」
それでも、マスターは店の中に入っていったので、俺も後を追う。
「シャンプーの詰め替えがなくなりそうだから、買っておこうか」
「はい」
「きょろきょろしてると、迷子になっちゃうよ?」
「あ、す、すみません」
慌ててマスターの隣に並ぶと、マスターはちょっと笑って、
「冗談だよ。カイトの居場所は、すぐ分かるから」
「え?」
「はぐれても、ちゃんと迎えに行くから。心配しないで」
「え、あの・・・・・・はい」
シャンプーとリンスの詰め替えを買うと、マスターは再び外に出ていった。
「ちょっと重いけど、2kgの買っていい?」
「いいですよ。大丈夫です」
マスターには、ちょっと重い荷物を、俺は腕に抱える。
こんな時、自分が男性型でよかったと思う。
マスターの役に立てる。マスターが、俺を頼ってくれる。
それが、何より嬉しい。
レジを済ませて、マスターと家路についた。
「そこに置いといてくれる?後でするから」
「はい」
家に帰って、まず肥料の袋を、庭に置く。
「ありがとう。カイトが一緒に来てくれて、助かった」
「俺も、マスターと出掛けられて、楽しかったです」
「そう?それは良かった」
そう言ってから、マスターは欠伸をして、
「ちょっと眠い」
「少し横になってください、マスター。俺が起こしますから」
「うん、ありがとう」
家の中に入ると、マスターのお姉さんが、一人でお茶を飲んでいた。
「ただいま」
「ただいま戻りました」
マスターのお姉さんは振り向くと、
「お帰りー。何買ってきたの?」
「肥料。後、シャンプーとリンスの詰め替え」
「ありがとー。助かる」
マスターは、リビングを見回して、
「メイコとミクは?」
「拗ねてパソコンに戻ってる」
「そう。分った」
「マスター、これ仕舞ってきますね」
俺が、詰め替え用を示すと、