キミの旋律番外編
「うん、ありがとう。僕、ちょっと寝るね。後で戻してあげるから、カイトはパソコンに戻ってていいよ」
「あ、はい」
そう言って、マスターは部屋に戻っていく。
「カイト、ちょっと」
「はい?」
マスターのお姉さんが、俺を手招きした。
「これ、持ってかなかったの?」
そう言って、マスターの携帯音楽プレーヤーを見せる。
「ああ、はい。マスターが、今日はいいからと」
「ふーん」
マスターのお姉さんは、イヤホンをいじりながら、
「何で、これ持ち歩いてるか、教えたっけ?」
「え?いいえ。あの、曲を聞く為ではないんですか?」
俺が聞くと、マスターのお姉さんは笑って、
「まあ、普通はね。ただ、あの子の場合、他にも意味があるのよ。外の雑音を遮る為」
「雑音?」
「うん。特に、カイト達を実体化させてる時はね。何て言うか・・・回線が開いてるっていうの?シンクロしたままの状態だから、意図せず他の子とも繋がっちゃうのね。で、向こうも珍しがって、ひっきりなしに話しかけてくるから・・・すごく、疲れるみたい」
「え・・・」
そんなこと、マスターは一言だって、教えてくれなかった。
何時もどおりに、喋っているのだとばかり。
だから、眠いって・・・。
「そんな顔しないで。後で私が怒られるから」
マスターのお姉さんは、俺を見上げて、
「カイトと出掛けるなんて、初めてじゃない?これ使ってたら、話しが出来ないから」
「・・・・・・・・・」
「カイト、あの子をよろしくね」
「・・・・・・はい」
「それ、私が仕舞っておくから。カイトは部屋に行っていいよ」
「はい。ありがとうございます」
俺は、頭を下げて、マスターのお姉さんに買い物袋を渡すと、大急ぎでマスターの部屋に行った。
マスターは、ベッドに横たわって、静かに寝息を立てている。
俺は、そっと掛け布団を直すと、ベッドの横に座った。
「マスター・・・」
声を掛けても、マスターが起きる気配はない。
「マスター、今日は一緒に出掛けられて、嬉しかったです。でも、無理はしないでください。俺もメイコもミクも、マスターのことが一番大事なんですから」
マスターは、パソコンに戻っていいと言ったけれど、とてもそんな気にはなれない。
「マスター。マスターは、俺達にとって、本当に大切な人なんです」
だから、どうか、一日でも長く。
あなたの傍に、居られますように。
終わり