デュラ×ペイン
なんだろう?と帝人が足を止めると「……じゃーな、帝人!また、明日な!!」と、正臣は、にっかり笑って、帝人を置き去りにして、走っていってしまう。
帝人は静雄とふたりきりで残された形になり、どうしようかと戸惑い立ち尽くす。
「帝人」
「え?あ、はい」
「俺は死なねえ」
「は?」
静雄のセリフに、帝人は疑問の声をあげる。
確かに平和島静雄は殺しても死にそうにない人物だったが、まさか本当に不死身ではあるまい。
あの○○○○でもないのだから、怪我や病気をしにくい丈夫さで、死ににくい程度ではないのか。
そんな疑問を浮かべた帝人に、静雄は更に言葉を紡ぐ。
「お前のことも死なせねえ。この街は、絶対に、俺が護る」
「はあ」
いったい何から護るつもりなのか、この街の公共物をもっとも破壊しているのは、静雄ではないのかと、心中でツッコミをいれながらも、帝人は頷いた。
なにせ相手が相手であったし、静雄は真剣な様子で、そんなツッコミをいれられる雰囲気でもない。
だが静雄の真意の解からぬ帝人に返せたのは、気の抜けた相槌だけだった。
それでも静雄は引き締まった真剣な表情を柔らかくゆるめる。
そして帝人の頭をくしゃりと一撫ですると、何かを振り切るように踵を返した。
去り行くぴんと伸びた背中に、帝人は言葉にできない何かを感じた。
きっと恐らく、その背に重い何かを背負いながら、まったく揺らがず、背筋をまっすぐに伸ばした姿に不思議な感動を覚える。
その背に追いつきたいと想いながら、ただ一歩も踏み出せない自分に焦燥を覚える。
(どうすればいい?僕は、どうすれば……)
焦る気持ちに答えを見つけられないまま、遠ざかる背中は雑踏に消えた。
そして気づく。
何時の間にか、涙が頬を伝って零れ落ちていたことに……。
「あれ?なんだ?これ?」
頬を掌で拭って、その涙の理由を探るが思いつかない。
ただ寂しさが、帝人の胸を締め付けた。
「なんだろう?」
自分で自分のことが解からない不思議に首を傾げて、そしてもうひとつの疑問を並べる。
「どうして、名前?」
静雄と帝人は、一応は知人だが、そう親しい関係でもない。
これまで静雄は、帝人のことを苗字で呼んでいたし、その苗字だって正確に覚えているかは怪しいものだった。
それが何時の間にか、名前での呼び捨てに変わっている。
おかしい、おかしいが、もっとおかしいのは、とっさに違和感を感じなかった自分の反応の鈍さだ。
長期休暇が終わり、久しぶりに学校に登校して、疲れているのだろうか?
今日は正臣の忠告どおりに、早めに帰った方がいいかもしれない。
帝人は全てを疲労のせいにして、己の涙の理由を深く追求することもないまま、夕暮れの街並みを、急ぎ足で家路についた。