おうごんいろのゆめ
「それにしてもリアルな夢だったなぁ」
「どんな感じだったか覚えてるかい?」
「ええ、そりゃもう、映画でも見てたみたいに」
セーシェルは説明する。気がつくとセーシェルは、幼いアメリカの身体の中に入っていた。どうやらアメリカ大陸にいるらしい。きれいな夕陽に見とれた。草をかき分け、水場に水を飲みに行った。――ふんふんと聞いていたアメリカの顔色が、次第に変化していく。
「それで、お水を飲んでたら、急にあの感じがして」
「……俺たちの仲間が近くにいる時の、あの?」
「そうそう、それです!で、走っていったら」
「そこにイギリスがいて?」
「はい、長い上着にごつい服で、昔っぽい」
「で、俺が彼に飛びつくと」
「イギリスさんがアメリカさんを抱き上げて」
言う。
――元気だったか、アメリカ?
ふたりの台詞が和音となってつむがれた。
どちらからともなく、ふたりはがっちりと手を握り合う。
「わわわ私の頭の中覗いたんですか?」
「日暮れ頃にイギリスがやってきた日のことだろ、覚えてるよ」
セーシェルが語った夢の内容そのままに、アメリカの思い出としてアメリカの脳内に格納されているのだから。
「アメリカさん、ユニコーンとか、妖精のいたずらとか、信じます?」
「よしてくれよセーシェル!イギリスみたいなこと言わないでくれよ!」
「やっぱりイギリスさんかイギリスさんの妖精さんの仕業とか、っぽいですよねぇ?!」
「それは彼の幻覚だろう!!」
本当にセーシェルが、一般的にタイムスリップと呼ばれる現象を体験したのか。それとも折り重なった《偶然》の仕業なのか、真相は不明のままである。
だが。
「おーいアメリカ、いるんだろ?上がらせてもらうぞ!」という声が近付いてくるのが聞こえて、びくりとセーシェルは肩を震わせる。
「イ、イギリスさん?!どうして!」
「うちのお手伝いさんとすっかり仲良くなっちゃって、時々入ってくるんだよね」
会議の主催者なのに、ろくに後片付けもせずに帰りやがって。会議場に忘れてたお前の資料、持ってきてやったぞ。――そう言いながら入ってくるイギリスが目にするのは、喧嘩別れした彼女と元弟が、手に手を取り合って寄り添っている姿である。
「……?!」
「あのイギリスのめずらしい反応が見られて、俺はおもしろかったぞ」
事の顛末を尋ねられたアメリカはのちに、それだけを語る。
End.