7年後in居酒屋
!諸注意!
※7年後でin居酒屋です。
※佐久間視点。
※カップリングはとりあえずいっこも成立しておりません。
※小磯くんが釣った魚に餌やらない子です。
**********
「あー、佐久間来た」
目的の居酒屋の入り口近くに、健二という見飽きたデザインの友人がなんとなく立っていた。
よー、とこっちもなんとなく掌を見せる。もう一人、健二の隣で携帯を操作していた人物が顔を上げると、俺の方に向かって話し掛けてきた。
「佐久間さん。夏希姉、ちょっと遅れるから先始めてて、って」
え、誰だっけ? と一瞬接続が怪しくなったが、すぐによく知る人物だと思い至った。
学生時代は健二を挟んでしょっちゅうつるんでいたものだが、就職してからこっち、殆ど顔を合わせる機会もなかった。その間に。
「上手いこと完成したなあ、キング……」
「オフラインでその呼び方、やめてよ」
「ははは、そうだった」
とは言ったものの、普通に呼び捨ててると、いつもこっそり健二から不機嫌オーラが出ていたような。佐久間ちょっと馴れ馴れしいんじゃないの的な。
もう一件、只今遅刻中の夏希先輩に関しても。もう高校も卒業して大分経つし、まあ普通にさん付けで呼んでたところ、健二が笑顔でムッとし出した。ような気がする。佐久間お前ホント調子こくよな的な。
どっちも言葉で直接言われるようなことは、一切なかったのだが。
とりあえず乾杯、とジョッキが三つ、がっちんと色気のない音を立てた。
冷奴や蛸山葵といったすぐに来る簡単なつまみを適当に口に運びながら、雑に世間話というか最近の話題などをお浚いする。
一人箸も持たずぐびぐび飲んでた健二が暫くして「学期末まじしんどい半端ない」とかぶつぶつ言い始めた。
「何、ゼミ生の卒論とか、お前が指導してんの」
ううん、と健二が頭を振る。
「そっちは手伝う位。それより学部生のレポートのチェックが面倒でさー、どっかその辺からまんま剽窃してないかとか。年々手口が巧妙になっててさあ、調べるだけですごい時間掛かった……全く、最近の子は」
「俺がやった訳じゃないじゃん」
低い頬杖からちらりと見上げながら言い放った健二に、見上げられた方のキングが抗議の声を上げる。自分だって最近まで学部生だった筈の健二は、偉そうに生欠伸をした。
「だから寝不足なの」
「そんな寝てないのに飲まない方がいいんじゃないの」
「嫌だ。割勘負けするから嫌だ」
「うわー、ケチくさ……」
「どうせケチです」
「どうせそんなに飲めない癖に」
「飲みます」
「飲んだらすぐ寝る癖に」
「今日は寝ない!」
「嘘ばっか」
「まーまー、いいじゃん。こいつ寝たら伝票置いて帰ろうぜ」
野郎だらけの可愛らしくも不毛な会話に、華やかで明るい声が飛び込んで来た。
「ごめーん、遅くなっちゃって!」
いかにも仕事帰りらしい大きめの鞄を肩に掛けた彼女は、それでも疲れ知らずの溌溂とした笑顔を見せた。潤いの足りない今日此頃が一発で癒される気分だ。女子って偉大。
さっきまでチクチクとやりあってた二人から「お疲れ」「お疲れ様です」の声がそれぞれ上がる。
「夏希先輩お疲れ様っす。お言葉に甘えて先始めさせて貰ってます」
「ううん、間に合うつもりだったのに、ホントごめん」
先輩が空いた席に落ち着くと、いいタイミングで先に注文していた料理がやってきた。テーブルの上が瞬く間に賑やかになっていく。最後の皿を置く瞬間を見計らって店員に声を掛けた。
「すんません、注文いっすか。夏希先輩、何飲みます?」
「じゃ、カシスオレンジで」
すかさず横からキングが生中、と付け足す。じゃ、それでと確認し終わったところで先輩に向き直る。相変わらず、美人だ。それどころか、会う度綺麗になってくなあ、この人……。
この美女を嘗て健二が落としたことがあったという事実が、実は未だに信じられなかったりする。その後、健二と別れた理由も経緯もよく知らないが、元々の立ち位置を思い出した時、こうして時々でも会える接点があるのが奇跡的な程で、まあその結末は妥当な線だと言えるだろう。
「久しぶりっすね」
「そうね。佳主馬とも」
「うん」
「健二くんとはこないだ会ったよね。駅で偶然」
「はい。会ったって言うか……擦れ違った感じですけど。先輩忙しそうでしたね」
「そうなの、忙しかったのー。だから今日全部奢りでしょ?」
「いや、割勘っすけど……」
「えー、これってあたしのお疲れ様会じゃないのー?」
「違うよ。俺の進級確定祝い。だから俺がタダ酒」
雑ぜっ返したキングに、先輩が何言ってんの、と切り返す。
「大学生なんて、単位取れても取れなくても進級はするもんでしょ。それとも何、そんなに単位やばかったの?」
「全然」
「まあ、色々込みって事で。俺も一つ納期終えたばっかですもん」
「健二くんは? 何か白さに拍車が掛かってない? 隈出てるし」
「はあ……まあ、いつも通りです……年度末ですし」
先輩の勢いに健二が弱々しく笑い返すと、そこから近況報告という名のここ最近誰が一番シビアだったか競争が始まった。
話も箸も止まらずに、快調に皿から料理が消えていく。
「あ、先輩も何か食いモン注文します? 全員で割勘ですけど」
すみませーん、と傍を通った店員を呼び止めながら先輩にメニューを差し出す。
「あたし、軟骨とハツの塩焼きと水餃子と、あとジントニック」
受け取りながら間髪を入れず、先輩が次々オーダーする。
「え……何でそんなスルッとオーダー出てくるんすか……」
「このお店よく使うから」
にっこりと綺麗な笑顔を向けられると、それ以上は追及できなかった。向かい側からメニューを覗き込み、先輩のオーダーの後を引き取るようにキングが言う。
「俺も、手羽先と生春巻きとカニクリームコロッケとサイコロステーキ、あと生中」
「頼みすぎじゃね? てゆうかペース早くね? キング」
「その呼び方いい加減やめてって言ってるよね、佐久間さん」
「あ、俺、梅酒で。と言われても、今更。なあ?」
前半の台詞は勿論店員に。後半と最後は向かいに座る二人にそれぞれ投げかけたものだったが、片方は既に潰れていた。
まあ予想通り、健二の方が。
「健二くん、変わってないねー」
早々と途絶した健二への悪口で一頻り盛り上がった後、くすくす笑いながら、半分呆れ顔で、でも半分楽しそうに先輩が言う。
「先輩と別れてから、こいつダメと数学バカに拍車が掛かってますよ」
「じゃあ健二くん、ずっと彼女いないんだ?」
「俺の知る限り、そーっすねー」
「何だ、あたしてっきり健二くんがフリーになった時点で、佳主馬が狙い落としたもんだとばっかり……」
「あはは、何すかそれ。ウケるんですけど、先輩」
「そんなの、とっくの昔に告白して、とっくの昔に振られてるよ」
「嘘?!!」
盛大に驚いた先輩の隣で、俺も同じく盛大に飲んでた梅酒を噴き出しかけたが、辛うじて堪えた。何? キング今何つったの?
「……ホントだよ」
仏頂面で手羽先を解体しながら斜め前の青年が答えた。キング、指先を舐める動作まで無駄に格好良いな。
※7年後でin居酒屋です。
※佐久間視点。
※カップリングはとりあえずいっこも成立しておりません。
※小磯くんが釣った魚に餌やらない子です。
**********
「あー、佐久間来た」
目的の居酒屋の入り口近くに、健二という見飽きたデザインの友人がなんとなく立っていた。
よー、とこっちもなんとなく掌を見せる。もう一人、健二の隣で携帯を操作していた人物が顔を上げると、俺の方に向かって話し掛けてきた。
「佐久間さん。夏希姉、ちょっと遅れるから先始めてて、って」
え、誰だっけ? と一瞬接続が怪しくなったが、すぐによく知る人物だと思い至った。
学生時代は健二を挟んでしょっちゅうつるんでいたものだが、就職してからこっち、殆ど顔を合わせる機会もなかった。その間に。
「上手いこと完成したなあ、キング……」
「オフラインでその呼び方、やめてよ」
「ははは、そうだった」
とは言ったものの、普通に呼び捨ててると、いつもこっそり健二から不機嫌オーラが出ていたような。佐久間ちょっと馴れ馴れしいんじゃないの的な。
もう一件、只今遅刻中の夏希先輩に関しても。もう高校も卒業して大分経つし、まあ普通にさん付けで呼んでたところ、健二が笑顔でムッとし出した。ような気がする。佐久間お前ホント調子こくよな的な。
どっちも言葉で直接言われるようなことは、一切なかったのだが。
とりあえず乾杯、とジョッキが三つ、がっちんと色気のない音を立てた。
冷奴や蛸山葵といったすぐに来る簡単なつまみを適当に口に運びながら、雑に世間話というか最近の話題などをお浚いする。
一人箸も持たずぐびぐび飲んでた健二が暫くして「学期末まじしんどい半端ない」とかぶつぶつ言い始めた。
「何、ゼミ生の卒論とか、お前が指導してんの」
ううん、と健二が頭を振る。
「そっちは手伝う位。それより学部生のレポートのチェックが面倒でさー、どっかその辺からまんま剽窃してないかとか。年々手口が巧妙になっててさあ、調べるだけですごい時間掛かった……全く、最近の子は」
「俺がやった訳じゃないじゃん」
低い頬杖からちらりと見上げながら言い放った健二に、見上げられた方のキングが抗議の声を上げる。自分だって最近まで学部生だった筈の健二は、偉そうに生欠伸をした。
「だから寝不足なの」
「そんな寝てないのに飲まない方がいいんじゃないの」
「嫌だ。割勘負けするから嫌だ」
「うわー、ケチくさ……」
「どうせケチです」
「どうせそんなに飲めない癖に」
「飲みます」
「飲んだらすぐ寝る癖に」
「今日は寝ない!」
「嘘ばっか」
「まーまー、いいじゃん。こいつ寝たら伝票置いて帰ろうぜ」
野郎だらけの可愛らしくも不毛な会話に、華やかで明るい声が飛び込んで来た。
「ごめーん、遅くなっちゃって!」
いかにも仕事帰りらしい大きめの鞄を肩に掛けた彼女は、それでも疲れ知らずの溌溂とした笑顔を見せた。潤いの足りない今日此頃が一発で癒される気分だ。女子って偉大。
さっきまでチクチクとやりあってた二人から「お疲れ」「お疲れ様です」の声がそれぞれ上がる。
「夏希先輩お疲れ様っす。お言葉に甘えて先始めさせて貰ってます」
「ううん、間に合うつもりだったのに、ホントごめん」
先輩が空いた席に落ち着くと、いいタイミングで先に注文していた料理がやってきた。テーブルの上が瞬く間に賑やかになっていく。最後の皿を置く瞬間を見計らって店員に声を掛けた。
「すんません、注文いっすか。夏希先輩、何飲みます?」
「じゃ、カシスオレンジで」
すかさず横からキングが生中、と付け足す。じゃ、それでと確認し終わったところで先輩に向き直る。相変わらず、美人だ。それどころか、会う度綺麗になってくなあ、この人……。
この美女を嘗て健二が落としたことがあったという事実が、実は未だに信じられなかったりする。その後、健二と別れた理由も経緯もよく知らないが、元々の立ち位置を思い出した時、こうして時々でも会える接点があるのが奇跡的な程で、まあその結末は妥当な線だと言えるだろう。
「久しぶりっすね」
「そうね。佳主馬とも」
「うん」
「健二くんとはこないだ会ったよね。駅で偶然」
「はい。会ったって言うか……擦れ違った感じですけど。先輩忙しそうでしたね」
「そうなの、忙しかったのー。だから今日全部奢りでしょ?」
「いや、割勘っすけど……」
「えー、これってあたしのお疲れ様会じゃないのー?」
「違うよ。俺の進級確定祝い。だから俺がタダ酒」
雑ぜっ返したキングに、先輩が何言ってんの、と切り返す。
「大学生なんて、単位取れても取れなくても進級はするもんでしょ。それとも何、そんなに単位やばかったの?」
「全然」
「まあ、色々込みって事で。俺も一つ納期終えたばっかですもん」
「健二くんは? 何か白さに拍車が掛かってない? 隈出てるし」
「はあ……まあ、いつも通りです……年度末ですし」
先輩の勢いに健二が弱々しく笑い返すと、そこから近況報告という名のここ最近誰が一番シビアだったか競争が始まった。
話も箸も止まらずに、快調に皿から料理が消えていく。
「あ、先輩も何か食いモン注文します? 全員で割勘ですけど」
すみませーん、と傍を通った店員を呼び止めながら先輩にメニューを差し出す。
「あたし、軟骨とハツの塩焼きと水餃子と、あとジントニック」
受け取りながら間髪を入れず、先輩が次々オーダーする。
「え……何でそんなスルッとオーダー出てくるんすか……」
「このお店よく使うから」
にっこりと綺麗な笑顔を向けられると、それ以上は追及できなかった。向かい側からメニューを覗き込み、先輩のオーダーの後を引き取るようにキングが言う。
「俺も、手羽先と生春巻きとカニクリームコロッケとサイコロステーキ、あと生中」
「頼みすぎじゃね? てゆうかペース早くね? キング」
「その呼び方いい加減やめてって言ってるよね、佐久間さん」
「あ、俺、梅酒で。と言われても、今更。なあ?」
前半の台詞は勿論店員に。後半と最後は向かいに座る二人にそれぞれ投げかけたものだったが、片方は既に潰れていた。
まあ予想通り、健二の方が。
「健二くん、変わってないねー」
早々と途絶した健二への悪口で一頻り盛り上がった後、くすくす笑いながら、半分呆れ顔で、でも半分楽しそうに先輩が言う。
「先輩と別れてから、こいつダメと数学バカに拍車が掛かってますよ」
「じゃあ健二くん、ずっと彼女いないんだ?」
「俺の知る限り、そーっすねー」
「何だ、あたしてっきり健二くんがフリーになった時点で、佳主馬が狙い落としたもんだとばっかり……」
「あはは、何すかそれ。ウケるんですけど、先輩」
「そんなの、とっくの昔に告白して、とっくの昔に振られてるよ」
「嘘?!!」
盛大に驚いた先輩の隣で、俺も同じく盛大に飲んでた梅酒を噴き出しかけたが、辛うじて堪えた。何? キング今何つったの?
「……ホントだよ」
仏頂面で手羽先を解体しながら斜め前の青年が答えた。キング、指先を舐める動作まで無駄に格好良いな。