7年後in居酒屋
『ちょっと佐久間、これどーゆー事???!!!!』
でけー声。二徹明けの頭に響くだろ、アホ。迷惑電話はアホの健二からだった。
「何、どしたの」
あからさまに不機嫌な声で応じてやる。少しは怯むかと思ったが元来気の弱い筈のこの友人は、今はそれどころではないらしく、はぐれメタル並みにレアな攻めの姿勢で捲し立てた。
『今、ハガキ来たんだけどさ、【私達結婚しました】ってやつ、写真がどう見ても夏希先輩と佳主馬くんなんだよ!! 差出人見たら[篠原夏希・佳主馬]って……え、やっぱ本人??? あと、なんか二人とも花嫁衣裳なんだけど???!!!!!』
「落ち着けよ……」
そうだった。すっかり忘れてたが、今日は予てからの時限爆弾が爆発する日だった。
(元はといえば、あの飲み会で……)
そうだ、又従姉弟たちの会話の流れから察するに、健二があの二人に気を持たせたまま半端に断られたり断ったりしたのだろう。そんな健二の態度に密かに苛立っていたに違いない。アルコールによる解放感から、思わぬ同士を見つけてしまって意気投合した結果がこれなのだ。
喚く健二を適当に宥めながら、ぼんやりしているあの日の記憶を手繰り寄せた。
俺の憧れの先輩像が、音を立てて崩れ去ったあの日。
あの後、足元の怪しすぎる酔っ払いをタクシーから降ろし、マンション入口の電子ロックに自室のキーを入力させ、部屋の玄関まで連れて行った。
『着きましたよ、先輩。大丈夫ですか?』
『……うわーん、佐久間くーん』
声を掛けると、甘えるような泣き声で縋り付いてきた先輩はやっぱりとんでもなくキュートだったが。
『佳主馬があたしのカシオレ取ったぁ〜〜』
しかし完全に寝言だった。俺は先輩の両肩を掴んで、しっかりしてくださいよ、と強めに揺さぶった。うー、と微かに反応があったのでもう後は知りません俺帰りますからねと念を押してオートロックの扉を外側から閉めた。
玄関に転がして放置した後ろめたさはあったが、何が起こるってまあせいぜい風邪を引く程度だろうと思って敢えてそうしておいた。
実際は風邪は引かなかったらしいが、固い床に朝まで寝ていた所為で、体中が痛かったと言っていた。いい教訓としてしっかり反省してもらいたい。ついでに泥酔した美女を前にした男がどれだけ怖いかがっつり教えておくべきだっただろうか……いやいやいや。
今そんな話じゃなくて。
「落ち着けって……今日は何月何日だ?」
『え、しがつついたち…って、あっ、そうか!! エイプリルフール……!』
日付指定で配達されてる時点で気付きそうなもんだが。
「まあ、俺んとこには先々週ぐらいに来たけどな」
但し、連名のメールで、アイコラの作成依頼が来た訳だが。
『えっ、何で?!!』
「さあな」
『えええええ〜……何コレ、どういう……』
「とにかく、気になるなら自分で確かめればいいだろ。俺マジ今手ぇ離せない」
そんなぁ〜…と、受話器の向こうで情けない声を上げる健二のその表情を想像して、又従姉弟たちの意趣返しが成功していると悟る。
「急いだほうがいいんじゃねえ? 海外に永住するとかいう話も出てるみたいだぜ」
一方的に通話を切って、こっそり舌を出した。
これは俺の分。
今日が何月何日かって、親切に教えてやってるんだから。気付かないほうが悪いってことで。
あと、どう考えても、お前の蒔いた種だろ!!
(END)