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but me no buts

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 15歳の幼い約束を彼がどの程度本気に受け取っていたのかはわからない。
しかし、18歳の誕生日に彼は自宅に岳人を呼び寄せた。
 そして現在。向かい合って座っているこの状態はなんのために準備されたものなのか、それは空気が何よりも雄弁に語っている。



 岳人は、その約束を忘れたことはなかった、とは言えない。
 高校の時にも大学に入学してからも、ハッキリ言って、モテた。女の子とキワドイ空気になって、それを避けられるほど大人でも子供でもなかった岳人にとってこの約束と、他人と関係を持つことは切り離して考えたほうが健康的だった。
 しかし、日吉を目の前にして、そんな自分は汚れていて、彼の腕の中にいるべきではないのだ、という忸怩たる思いが拭い去れない。
柄にも無くどぎまぎしている岳人に向き合った日吉は浅く息を吐き出して、思いがけぬ言葉を言った。

 「散歩にでも行きましょう。」

 寝間着として用意された薄着の上に、更に借り物の、どてらというのか、厚手の羽織りを引っ掛けていても、やはり12月の東京は寒い。
 日吉の家はその大きさに見合い、都内にも関わらずとても閑静な土地にあった。その周りをどこへともなく、とりあえず最寄りの自販機までといった具合に歩き出してはみたもののやはり無目的には相違なく、自然と二人は無口になる。
 対向してきたミニ・バンが人工的な光で目を射てから先は、奇妙なほどの静寂がつづいた。
 車道側を歩いていた日吉が、道が狭くなるためにこちらに身を寄せる。その衝撃と同時に、何気なく手を握られた、その意外さ。
 多くの行動においてどちらかといえば先導するのは岳人であったために、日吉のこの行動は岳人には意外で、こいつも慣れていて、本当に、あの中学生であった時代より確実に大人びているのだといった感慨がこみ上げる。そして同時に、無性に悔しくなった。
 だから、中学からの「先輩」としての態度でとっさに強がって、手を握り返してしまう。
 そんな岳人の、暗がりだからなのか、それとも寒いのか、見分けがつかないくらいのかすかさで赤みを差す頬に気づいた日吉はやはり、と思う。
 「向日さん。今日は、やめましょうか」
 その瞬間に、赤茶色の大きな瞳が驚きで見開かれる。美しいな、と日吉は思う。
 「おまえ、だって、誕生日で、約束もしてるし、…… 」
 真っ白な息を断続的に吐いて、それでも岳人は懸命に自分の立場を示そうとする。
 懸命にまくしたてる自分を、奇妙なほどに落ち着いて聞いている日吉を見ていると心が揺れた。
 この揺れは、自尊心の揺れなのか、それとも、情欲なのか。それがわからない。
 岳人は、息を止めて日吉に口付ける事にした。それが答えだと、精一杯の感情で示そうとして。


作品名:but me no buts 作家名:梓智