口説く。
1. フェリが菊を
菊はスキンシップが苦手だ。
触ることはともかく、触られるのに抵抗がある。
理由は自分でもよくわからないが、彼の国の人は概ねそうだから、今までは気にならなかった。
この性質と正面から向き合う羽目になったのは、ハグが大好きな友人ができてから。
彼……フェリシアーノはとにかく人と触れているのが好きで、人に触れられるのはもっと好きときている。
今も、菊の頭の上になぜかフェリの顎が乗っている。
「菊の髪の毛って、絹糸みたいだね~」と言いながら、時々頬ずりもしてくる。
初めてハグされた時には突き飛ばした揚句、「責任とって下さいね」と叫んでしまうほどうろたえた事を考えると、この習慣にも慣れたものだと思う。
思わず「ふふっ」と笑いがこぼれる。
「あ。菊が笑った」
「ええ、なんだか幸せだと思いまして」
するり。と、背後からフェリの腕が菊の上体に回ってきた。
「幸せ? 俺と居るの、幸せなの?」
はい。と答えると、フェリの腕に力が入った。背中一面で、フェリの体温を感じてしまう。
「俺も幸せだよ~。菊、あいしてる」
いつも彼がくれる優しい言葉と共に、フェリの頭が菊の左肩に落ちてきた。
「あいしてる」
耳元でささやかれると、くすぐったいのを通り越して背筋がぞくっとする。
遠慮なく菊の肩に体重を乗せているので少し、重い。
「あの……フェリ、重いですよ」
そう言うと、肩にかかった重みが少し移動した。より、菊の首筋に近い場所へ。
それと同時に菊を抱きしめる腕にも力がこもる。
「あいしてる」
「……フェリ?」
彼の腕が、いつの間にか菊の身体にしっかり絡み付いている。
菊なら外すことも可能だが、むやみに振り払えそうな雰囲気ではなかった。
「重い?」
「はい」
「苦しい?」
「少しだけ」
「俺もなんだ」
短いやり取りが、妙な緊張感をはらんでいる。
何とか雰囲気を変えたくて、菊は右手でフェリの額をそっと押しやろうとした。
「菊のこと考えると、胸が苦しい。考えすぎて心が重くなるくらいだよ」
「……」
フェリの顔に触れる直前で、菊の手が止まった。止めてしまった。
動きあぐねる菊の手を、フェリの手が包む。
「お願い。聞いてほしいんだ」
思いを込めて、フェリより一回り小さい手のひらに、軽く唇を落とす。
「!!」
手のひらというのは、普段意識しているよりずっと敏感でデリケートな感覚を隠し持っている。今の刺激は直接脳にきた。
思わず身をよじった菊を、フェリは離そうとしない。
「気持ちを伝えるのに、どんな言葉がいいか考えていたんだよ。でもね、他の言葉なんて、ないみたい」
だから、あいしてる。
フェリならこのまま、一晩でも二晩でも言い続けることができるだろう。
菊もフェリが好きだが、この思いにこたえられるかというと……答えは、否だ。
「私はあなたの友人ですが……それでは、駄目ですか?」
「それが菊の望みなら」
菊に避けられたら、俺死んじゃうし。そう呟くフェリの腕は、まだしっかりと菊を抱きしめたままだ。
「俺、あきらめないからね。これから菊の気が変わるかもしれないでしょ? それまで待つのも……駄目なのかなぁ」
菊はフェリの腕に自分の手を重ねて、答えた。
「少し、考えさせてください」
「考えてくれるんだね! 俺、待つの得意だから!」
どうしたものでしょうね……と、背中にフェリを張り付けたままこっそりつぶやく菊だった。
終
PS.
「ってなわけで、俺菊に告白しちゃいました!」
「そんな与太話聞きたくねぇっ! ってーか、確かあいつの『善処します・また今度・考えます』は、全部『いいえ』って意味じゃなかったのかよ」
「………………兄ちゃん」
「なんだよ」
「うわ~ん。俺、振られちゃったぁ」
「いまさら何言ってるんだ、馬~鹿」
* 情熱的に。