口説く。
「自分が悪いという自覚があるなら、ある日俺の理性がブチ切れても、文句はあるまいな?」
「あ~。えっと、できれば切れてほしくないんだけど。うん、無理言ったのは俺だから覚悟するよ」
覚悟の内容さえ吟味せず、フェリは即座に言いきった。
「そうか、よく言った」
フェリを肩に担ぎあげ、アパートの奥へ歩きだすルート。少し声が震えていたかもしれない。
「いつか切れてもいいなら、それが今日でも変わりないだろう」
「え? どうしてそうなるの? っていうか冗談でしょルッツ!」
迷いなく足を進める先は、フェリの寝室。
え。とかちょっと待って。とか言うフェリの呟きに聞く耳持たず、ルートはフェリをベッドに放りだす。続いて自分も座り込んで靴を脱ぐ。
「あ、あのねルッツ」
「今日の主導権は、俺にある」
もっと早くこうしておけばよかった。と、イヤに軽い口調で呟きながら、ルートは服を脱ぎ捨ててゆく。
「寝るぞ。お前、そのままでいいのか?」
良いも悪いもない。この状態で裸体になれる男など、地球上に存在するとは思えない。
「あの~。寝るにはちょっと早いと思うんだけど。お日様が真上だよ?」
「早めのシェスタと思えばいいだろう」
いやいやいやいやいや。フェリにしては珍しく、今すぐ表に出てマラソンでもしたい気分だった。だが、ルートの腕はしっかりと彼に絡みついたままで。
「じゃあ、おやすみ。しっかり頼むぞ抱き枕」
「へ?」
言うより早いタイミングで、ルートは寝息を立てはじめていた。
「お~い。ルッツ? 本当に寝ちゃったの?」
返事はない。さっきまでのやり取りで、精神力を使い果たしたらしい。
「あ。そういうことね」
いつもはフェリが、彼を抱き枕にしているようなものだ。
ごめん。本当にごめん。謝っても仕方ないかもしれないけど、ごめん。
いまさらだが、ルートの苦労が少しだけ実感できたフェリだった。
終
* 猪突猛進。