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「さみぃな。とっととあったかい所に戻ろうぜ」
　冬の風に少し震えるような仕草で、プロイセンがドイツに促す。
「お前に風邪でもひかれちゃ堪らねえ」
　ドイツを育てた人は厳しい人だが、それと同時にとびきり甘い人だ。
　ごく自然に彼が近づいてきたかと思うと、頬に優しく口づけられる。ほら、すっかり冷たくなっちまってるじゃねぇか、とドイツの耳元でプロイセンが笑った。俺のドイツ、とプロイセンが愛しげにドイツの名前を呼ぶ。
　何かは確実に変わっている。背の高さは彼と同じだと思っていたが、こうして近づくといつの間にか彼の目線が僅かに低くなっているという事にドイツは気が付いた。

「違うぞ、兄さん」

　ドイツはプロイセンの手を掴んだ。強い力にプロイセンが驚いたような顔をする。
　俺のドイツ、と彼が呼ぶのはその通りだ。彼がいなくては成り立たなかった国だ。自分は彼によって作られた国だ。彼が長い年月と大きな労力を以てようやく成し遂げたドイツ統一は、プロイセンという国を呑み込むものだった。彼に縋らないと生きていけなかった小さな子供は、これからは彼を旗下に置いて進んでいく事になるのだ。彼の庇護下で幸せにうずくまっていた時とは違う。

「今はあなたが、俺のプロイセンだ」

　あなたは俺の一部になったのだから。
　すぐ側に引き寄せたプロイセンの後頭部に掌を寄せると、ドイツは彼に顔を近づけた。そうするべきだと思ったのだ。ドイツが何をしようとしているか気付いたらしく、プロイセンが目を閉じる。ごく当然のように、二人の唇が重なった。本能のようなものなのかもしれない。手を繋いだ時のように、酷く心地いい。
「それも悪くねぇな」
　ゆっくりと顔を離すと、プロイセンはそう言って満足げに笑う。きっと彼も同じように思っているのだろう。
「戻ろうか」
　体を隠していた木から離れると、ドイツは城へと向きを変える。歩き出すとプロイセンも追いかけるようにドイツと同じ方向へ体を向けた。