ボカロと一緒。
ボカロと一緒。
side:マスター
学校から帰宅し、俺は、玄関の鍵を開ける。
「ただいまー・・・」
「お帰りなさい!マスター!!」
靴を脱ぐと同時に、体当たりを食らい、思わずひっくり返った。
げはっ!!
ガッ!!
「おっ前はああああああああああああああ!!!強制送還すっぞ!!!」
俺が、痛む腰をさすりながら見ると、頭を抱えてうずくまる男が一人。
「ひどい・・・鞄の角は酷いですよ、ますたあー」
涙目で、こっちを見る。
「お前の方が酷いわっ!!俺を殺す気かっ!!」
俺の従姉が、「VOCALOID」とかいうソフトを買った。
何でも、データを打ち込むと、歌うとか喋るとか。
俺にとって、パソコンは、ネットをする為のものであり、歌う必要はない。
だが、従姉は、「神調教して、動画にする」とか言っていた。
何だ、「調教」って。
お前、そっちの趣味があったのか。
だが、残念なことに、従姉には音楽の才能がない。
きっと、母親の腹の中に置いてきたんだ。必要ないっつって。
楽譜も読めねーくせに、よく買ったもんだと言ったら、「耳こぴする」とか言いやがった。
はは。「ドラえもん」を半音あげて歌ってた奴が、よく言うな。
まあ、あれは、ある意味才能かもな。聞いてるこっちは、気持ち悪かったが。
従姉が買ったのは、VOCALOIDシリーズの「KAITO」。
何で男?お前のレパートリーからしたら、女のほうが使いやすいんじゃねーか?と言ったら、
「男のほうが萌えるじゃん♪」
・・・お前、腐女子だったのか。
「出来たら、聞かせてあげる♪」なんて言っていたので、俺もちょっと興味が出てきて、VOCALOIDについて調べてみた。
無理だな。
調べ始めて10分で、俺はそう結論付けた。
あの、飽きっぽくて短気でずぼらの従姉に、使いこなせるわけがない。
無理だ。無茶だ。無謀だ。
安い買い物じゃねーのに。
溜め息とともに、俺は、その事柄を頭から追い出した。
従姉の衝動買いは、今に始まったことじゃねーしな。
だが。
「マスター、着替えたら、一緒にアイス食べましょう♪」
「どアホ。レッスンが先だろーがっ。着替えてくっから、先に発声してろっ」
「はーい♪」
うきうきと、ピアノの前に行くカイト。
置いてある楽譜を、適当に手に取っている。
そう。
この、背の高い、イケメンの、馬鹿でアホでヘタレで泣き虫の空気読めないアイス野郎は、VOCALOIDの「KAITO」。
従姉から、俺の元に送られてきたのだ。
「調教むずい!!代わりにやって!!」という、従姉からの電話に、うっかり安請け合いしてしまったのが、事の発端だ。
面白そうだし、曲を作るのは、嫌いじゃない。
嫌いじゃない、が。
一か月の約束で、俺の元に貸し出されることになったのは、ソフトウェアであって、人間ではないはずだ。
「よろしくお願いします、マスター♪」などと言って、家に来た時は、本気で通報しようと思った。
実体化してるならしてると、先に言え!!!
従姉に、実体化した理由を聞いたが、さっぱり要領を得なかった。
多分、分からないのに見栄を張ってるんだな。
バカイトには、聞くだけ無駄だった。
俺は、二階の自分の部屋に行くと、制服を脱ぎ棄て、普段着に着替える。
書きかけの楽譜を手に取り、一階に下りてくれば、
何故か、両腕を左右に振りながら、熱唱しているカイトの姿が。
・・・駄々っ子か。
「男女男男女男女!ふーっふーっ♪あ、マスター!どうですか!?俺の踊りは!!ミクやめーちゃんには負けませんよ!!」
「・・・帰りの電車賃、幾らだったっけ?」
俺は、キッチンの食器棚へ向かう。
お袋が、財布をしまってるはずだが。
「えっ!?ちょっ!!ますたああああああああああああああ!?」
「ああ、心配するな。従姉には、電話しておいてやるから」
「ますたああああああああああああああ!!!待ってくださいよおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
「短い付き合いだったな、カイト。おじさんとおばさんによろしく伝えてくれ」
「絶対領域ですか!?俺に、絶対領域が足りないからですか!?」
俺は、しがみついてくるカイトを引きはがしながら、
「・・・野郎の生足など、見たくねえ」
「つるぺただから!?つるぺたがいけないんですね!?毎晩揉んで、大きくしますから!!だから見捨てないでえええええええええええええええ!!!」
「・・・・・・・・・・・」
引きはがしても引きはがしても、カイトがしがみついてくるので、
「あー・・・うぜえ」
がっ!!
俺の、見事な肘打ちが、カイトの頭に振り下ろされた。
「・・・ひぃっく・・・えぐ・・・うぐ・・・」
「おーい。レッスン始めるぞー」
「・・・うぐ・・・えっく・・・ひっく・・・」
「・・・はあ」
カイトは、部屋の隅で、すっかりいじけてしまった。
俺は、溜め息をつくと、ピアノをぽぽんと鳴らす。
「ほれ、声出してみろ。どー」
ぽん。
「ひっく・・・うっく・・・ますたあがいじめる・・・」
「れー」
ぽん。
「・・・えっく・・・うええ・・・ひっく・・」
「みー」
ぽん。
「うっく・・・えっく・・・」
うーむ。乗ってこねーなー。
何時もなら、なし崩しにレッスンを始めてしまうのだが。
さすがに、肘打ちはやりすぎたか。
ちょっとだけ反省した俺は、書きかけの楽譜を譜面台に置くと、おもむろに弾き始める。
ゆったりしたテンポの、バラード。
歌詞は、大分気恥ずかしい、切ない恋心をテーマにしている。
従姉から、「まろんちっくな曲希望!!」と注文されたのだ。
・・・栗のテーマ曲でも、書いてやろうか。
「・・・・・・・・・・・・・」
カイトの泣き声がやんだ。
ふふんっ。乗ってきたな。
駄目押しに、俺は、ピアノに合わせて、歌詞を口ずさむ。
俺には少し低いが、カイトなら出せるだろう。
もう少し、キーを高めにしてもいいのだが、せっかくの男性ボーカルなので、ここは、低音を響かせてもらいたい。
出来れば、耳元で囁くように・・・
「マスター」
気がつけば、カイトが、後ろから楽譜を覗きこんでいた。
「この恥ずかしい歌詞は、徹夜脳で書いたんですか?」
ぴきっ!
「・・・レッスン終了。おつかれー」
「あっ!!ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!!歌います!!歌いますからあ!!!」
「・・・てめえは、パンツの歌でも歌ってろ」
「ますたああああああああああああああ!!まってえええええええええええええ!!!」
確かに、従姉が投げ出したくなる気持は分かる。
来た当初、教えれば教えるほど、こいつは下手になっていった。
従姉が変なクセをつけたせいもあり、「3歩進んで5歩下がる」状態だった。
それでも、基礎から叩きこんでいって、この頃は、何とか音程やリズムを外すことはなくなったのだが。
俺は、ピアノを引く手を止め、カイトに向きなおると、
「お前の声、歌になると、急にロボくなるのは、何故だ」
「えっ!?そ、そんなにロボいですか?」
「喋りは、流ちょうなくせに・・・」
side:マスター
学校から帰宅し、俺は、玄関の鍵を開ける。
「ただいまー・・・」
「お帰りなさい!マスター!!」
靴を脱ぐと同時に、体当たりを食らい、思わずひっくり返った。
げはっ!!
ガッ!!
「おっ前はああああああああああああああ!!!強制送還すっぞ!!!」
俺が、痛む腰をさすりながら見ると、頭を抱えてうずくまる男が一人。
「ひどい・・・鞄の角は酷いですよ、ますたあー」
涙目で、こっちを見る。
「お前の方が酷いわっ!!俺を殺す気かっ!!」
俺の従姉が、「VOCALOID」とかいうソフトを買った。
何でも、データを打ち込むと、歌うとか喋るとか。
俺にとって、パソコンは、ネットをする為のものであり、歌う必要はない。
だが、従姉は、「神調教して、動画にする」とか言っていた。
何だ、「調教」って。
お前、そっちの趣味があったのか。
だが、残念なことに、従姉には音楽の才能がない。
きっと、母親の腹の中に置いてきたんだ。必要ないっつって。
楽譜も読めねーくせに、よく買ったもんだと言ったら、「耳こぴする」とか言いやがった。
はは。「ドラえもん」を半音あげて歌ってた奴が、よく言うな。
まあ、あれは、ある意味才能かもな。聞いてるこっちは、気持ち悪かったが。
従姉が買ったのは、VOCALOIDシリーズの「KAITO」。
何で男?お前のレパートリーからしたら、女のほうが使いやすいんじゃねーか?と言ったら、
「男のほうが萌えるじゃん♪」
・・・お前、腐女子だったのか。
「出来たら、聞かせてあげる♪」なんて言っていたので、俺もちょっと興味が出てきて、VOCALOIDについて調べてみた。
無理だな。
調べ始めて10分で、俺はそう結論付けた。
あの、飽きっぽくて短気でずぼらの従姉に、使いこなせるわけがない。
無理だ。無茶だ。無謀だ。
安い買い物じゃねーのに。
溜め息とともに、俺は、その事柄を頭から追い出した。
従姉の衝動買いは、今に始まったことじゃねーしな。
だが。
「マスター、着替えたら、一緒にアイス食べましょう♪」
「どアホ。レッスンが先だろーがっ。着替えてくっから、先に発声してろっ」
「はーい♪」
うきうきと、ピアノの前に行くカイト。
置いてある楽譜を、適当に手に取っている。
そう。
この、背の高い、イケメンの、馬鹿でアホでヘタレで泣き虫の空気読めないアイス野郎は、VOCALOIDの「KAITO」。
従姉から、俺の元に送られてきたのだ。
「調教むずい!!代わりにやって!!」という、従姉からの電話に、うっかり安請け合いしてしまったのが、事の発端だ。
面白そうだし、曲を作るのは、嫌いじゃない。
嫌いじゃない、が。
一か月の約束で、俺の元に貸し出されることになったのは、ソフトウェアであって、人間ではないはずだ。
「よろしくお願いします、マスター♪」などと言って、家に来た時は、本気で通報しようと思った。
実体化してるならしてると、先に言え!!!
従姉に、実体化した理由を聞いたが、さっぱり要領を得なかった。
多分、分からないのに見栄を張ってるんだな。
バカイトには、聞くだけ無駄だった。
俺は、二階の自分の部屋に行くと、制服を脱ぎ棄て、普段着に着替える。
書きかけの楽譜を手に取り、一階に下りてくれば、
何故か、両腕を左右に振りながら、熱唱しているカイトの姿が。
・・・駄々っ子か。
「男女男男女男女!ふーっふーっ♪あ、マスター!どうですか!?俺の踊りは!!ミクやめーちゃんには負けませんよ!!」
「・・・帰りの電車賃、幾らだったっけ?」
俺は、キッチンの食器棚へ向かう。
お袋が、財布をしまってるはずだが。
「えっ!?ちょっ!!ますたああああああああああああああ!?」
「ああ、心配するな。従姉には、電話しておいてやるから」
「ますたああああああああああああああ!!!待ってくださいよおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
「短い付き合いだったな、カイト。おじさんとおばさんによろしく伝えてくれ」
「絶対領域ですか!?俺に、絶対領域が足りないからですか!?」
俺は、しがみついてくるカイトを引きはがしながら、
「・・・野郎の生足など、見たくねえ」
「つるぺただから!?つるぺたがいけないんですね!?毎晩揉んで、大きくしますから!!だから見捨てないでえええええええええええええええ!!!」
「・・・・・・・・・・・」
引きはがしても引きはがしても、カイトがしがみついてくるので、
「あー・・・うぜえ」
がっ!!
俺の、見事な肘打ちが、カイトの頭に振り下ろされた。
「・・・ひぃっく・・・えぐ・・・うぐ・・・」
「おーい。レッスン始めるぞー」
「・・・うぐ・・・えっく・・・ひっく・・・」
「・・・はあ」
カイトは、部屋の隅で、すっかりいじけてしまった。
俺は、溜め息をつくと、ピアノをぽぽんと鳴らす。
「ほれ、声出してみろ。どー」
ぽん。
「ひっく・・・うっく・・・ますたあがいじめる・・・」
「れー」
ぽん。
「・・・えっく・・・うええ・・・ひっく・・」
「みー」
ぽん。
「うっく・・・えっく・・・」
うーむ。乗ってこねーなー。
何時もなら、なし崩しにレッスンを始めてしまうのだが。
さすがに、肘打ちはやりすぎたか。
ちょっとだけ反省した俺は、書きかけの楽譜を譜面台に置くと、おもむろに弾き始める。
ゆったりしたテンポの、バラード。
歌詞は、大分気恥ずかしい、切ない恋心をテーマにしている。
従姉から、「まろんちっくな曲希望!!」と注文されたのだ。
・・・栗のテーマ曲でも、書いてやろうか。
「・・・・・・・・・・・・・」
カイトの泣き声がやんだ。
ふふんっ。乗ってきたな。
駄目押しに、俺は、ピアノに合わせて、歌詞を口ずさむ。
俺には少し低いが、カイトなら出せるだろう。
もう少し、キーを高めにしてもいいのだが、せっかくの男性ボーカルなので、ここは、低音を響かせてもらいたい。
出来れば、耳元で囁くように・・・
「マスター」
気がつけば、カイトが、後ろから楽譜を覗きこんでいた。
「この恥ずかしい歌詞は、徹夜脳で書いたんですか?」
ぴきっ!
「・・・レッスン終了。おつかれー」
「あっ!!ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!!歌います!!歌いますからあ!!!」
「・・・てめえは、パンツの歌でも歌ってろ」
「ますたああああああああああああああ!!まってえええええええええええええ!!!」
確かに、従姉が投げ出したくなる気持は分かる。
来た当初、教えれば教えるほど、こいつは下手になっていった。
従姉が変なクセをつけたせいもあり、「3歩進んで5歩下がる」状態だった。
それでも、基礎から叩きこんでいって、この頃は、何とか音程やリズムを外すことはなくなったのだが。
俺は、ピアノを引く手を止め、カイトに向きなおると、
「お前の声、歌になると、急にロボくなるのは、何故だ」
「えっ!?そ、そんなにロボいですか?」
「喋りは、流ちょうなくせに・・・」