痛いほど鮮やかな
「でもね、ぼくだけは信じてくれて良いんだよ。世界中の全てを敵に回しても、ぼくだけはキミの味方だから。ぼくだけは、キミを裏切らないから。だから、安心して。」
――――これもまた、嘘ではない。心からの言葉。
「ごめんね、御剣。もう、一生離してあげられそうにないんだ。」
いつか想いを伝えた日に口にした言葉をもう一度繰り返す。腕の中の御剣が少しだけ本当の笑顔になる。
「嘘ではない、な?」
「嘘じゃないよ。」
そう囁いて御剣にそっとくちづける。薄く開いた唇を舌でこじ開けて、彼の舌と絡めると一瞬、鋭い痛みが走った。血の味が広がり、歯をたてられたのだ、と分かる。
重ねた唇から同じ香りの血が滴った。うっすらと積もり始めた雪を二人の唇から落ちた鮮血が染める。
成歩堂は、唇を離すと、雪の上に散った鮮やかすぎるその紅い華を見つめた。そして顔をあげる。舌の傷はかなり深く、未だに口の中が疼く。
――――これが、御剣を愛することの痛み、だ。
「‥‥これでも、か?」
イタズラっぽく御剣が微笑む。
「?」
「これでも私を愛せるのか?」
その表情に魅せられたまま、成歩堂はぼんやり思う。
――――その痛みさえ愛しいから、御剣が残した“キズ”ならば、それは“キズナ”に出来る。
「舌を噛みきられたって構わないよ。」
そう囁くと、成歩堂はもう一度御剣に優しく口づけた。
――――痛いほど鮮やかな現実の中で。