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奇跡が起こるなら

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「もうやめろよ、御剣。」
成歩堂は静かに御剣を制したが御剣は続けた。
「捏造の証拠品を君に‥‥。」
「もうやめろってッ!」
成歩堂の怒鳴り声に御剣は思わず身を竦める。成歩堂はソファーに腰をおろすと呟いた。
「どうしてそんなに人を疑う訳?」
(それは貴様のため、だろう!)
心の中で激しい怒りを感じつつも御剣はそれを押さえて低い声でいった。
「私は‥‥検事、だからな。」
「‥‥じゃあ‥‥どうしてぼくを疑わないんだよ。」
「‥‥‥は?」
予想外の質問に間抜けな声をあげてしまう。
(成歩堂を疑う、だと?)
そんなこと、考えたこともなかった。
「だってそうだろ!?見るからに一番怪しいのはぼくじゃないか!人を信じることが仕事の弁護士のセンセイ方だって査問会でぼくから弁護士バッジをとりあげたさ!真宵ちゃんだってッ‥‥あの真宵ちゃんだって『言い訳はもう、いい。』って里に帰っちゃったのに‥‥どうして、どうしてお前はッ!」
そこまでいいだけ怒鳴ると成歩堂はプツンと糸が切れたように穏やかな口調になった。
「はっきり言って失望したよ。‥‥いや、絶望したね。弁護士なんて人を人を信じるとかいっておいてあんなもんなんだよ。今まで僕が信じて来たものはなんだったんだろう、って‥‥。」
「お前‥‥。」
―――悔しかったんじゃ、ないか。
―――悲しかったんじゃ、ないか。
あんな穏やかな顔して、酒飲んで、笑顔まで見せて―――本当は。
―――本当は誰にも信じられなかったことが悔しくてたまらなかったんじゃないか。
成歩堂の心の中を、見た気がした。
「じゃあどうして検事・御剣怜侍は‥‥ぼくを信じてくれる訳?」
御剣は思った。
3年前のあの状況で自分を信じてくれたからだ、とか借りを返す為だ、とか言い訳は色々できるだろう。そして確かに3年前の自分ならばそのように答えていただろう、とも。
―――でも、今は違う。そんなんじゃ、ない。
御剣はため息をついた。
「真宵くんの気持ちも、分かる気がするよ。」
「?」
―――そう。
「恐らく真宵くんは信じていたのだよ。君を掛け値なしで、な。」
私も同じ気持ち、だから。
「これは、あくまで想像だが君は彼女に何も話さなかった。‥‥心配をかけまいとして。だがそれが彼女にとって耐えられなかったのだ。」
成歩堂の自分を苛むような目。その目を見るのが辛くて御剣は目を逸らした。
「彼女は待っていたんだ。真実を聞かせてもらえるのを。‥‥君自身の口から、な。」
そこまで聞くと成歩堂は口を開いた。
「真宵ちゃんも君も‥‥‥。」
そして立ち上がり御剣の肩を掴む。宵闇の黒い瞳が御剣をとらえた。
「どうしてぼくを信じてくれるんだ?」
―――理由など、ない。
敢えて言うならば“それが成歩堂龍一だから”だ。長年親友として、そしてライバルとしてやってきたからこそ、分かる。私の知っている成歩堂龍一は捏造などする男ではない、と。
この気持ちをどう言葉にして良いのか分からずに御剣は目の前の成歩堂に笑ってみせる。
「それくらい、自分で考えたまえ。」
その宵闇の瞳を見つめているうちに御剣は切なくなって下を向いた。
「どうしたんだ、御剣?」
成歩堂は心配そうに声をかける。
こんな状況になってまで人を心配できる彼。どうしてそんな彼が―――。そうなるべくは彼ではなく寧ろ―――。
寧ろ、私のほうだったのに。
―――もしも。
「もしも奇跡が起こるなら―――。」
自分にはなにも望まない。失った父、過ぎ去りし青春時代。‥‥そんなものはもう、いい。全て君が取り戻してくれたから。
唯、目の前にいるこの男が―――。
「君が弁護士に戻れたらいい。」
かつて被告人を有罪にするために欲しかった力が今は唯、君の為だけに欲しい。私にもう少し力があれば―――力さえあれば。
「すまない、成歩堂。‥‥力になれなくて。」
御剣が謝ると
「謝るなよ。」
成歩堂は泣きそうな顔で無理矢理笑うと呟いた。
「謝るのはこっちの方だ。‥‥ごめんな、御剣。ぼくが‥‥‥迂闊、だったんだ。イヤな予感はしていたのに。‥‥でも。」
暗闇の中でも成歩堂の表情は分かった。
―――彼は、笑っていた。
「奇跡は‥‥君と再会するのに一生分の奇跡を使いはたしちゃったみたい。」
「‥‥!」
上を向いたら涙が溢れそうになって―――下を向いたら涙が溢れた。
「そのことを後悔するつもりは全然ないんだ。‥‥‥それに、さ。」
成歩堂の何かを確信したような顔。それで全てが分かった。彼はまだ諦めなどしていない、ということも。
「奇跡は起こるものじゃない。奇跡は起こすからこそ、奇跡なんだ。」
―――そうだ。彼はいつも法廷で奇跡を起こしてきた弁護士、じゃないか。
「転んでもただでは起きない、そういうことか。」
「そゆこと。‥‥どうもぼくを陥れた奴は頭のいい奴だったらしい。ちゃんと足がつかないようにしていた。‥‥ぼくがバカ、だったんだ。」
何かなぐさめの言葉を口にしようとして気がついた。‥‥確かに彼はバカ、だ。
「‥‥相違ない。」
バカなまでに真っ白だった。人を疑うことも知らない。
―――しかし、だからこそ一からやり直せる。
「このまま‥‥終わるわけじゃないだろう?」
成歩堂は暫く変な顔をしていたがやがて微笑んだ。
「もちろん。」
「ならば。」
彼の奇跡はもう起こってしまったが、幸いにして私の奇跡はまだ起こっていない。‥‥全て彼が起こしてくれた、から。ならば今度は私が彼に奇跡を起こしたい。そして願わくば―――。
「私の分の奇跡まで‥‥君に起こりますように。」
作品名:奇跡が起こるなら 作家名:ゆず