とある秀徳バスケ部員の日記 ー 4月の総括 ー
秀徳高校のバスケ部に入部して1ヶ月が経つ。
毎日短いけど日記をつけているわけだけど、改めて見返してみるとまだひと月しか経ってないのにいろいろあったなーと思うわけで。
日記の日付は4月6日の入学式から始まって、憧れのバスケ部を見学して感激したことからオレの日記は始まる。
先輩達が練習する体育館は、関東王者の名前そのもののオーラがあって、貫禄が凄すぎてでビビったのなんのって。
キャプテンの大坪さんなんか、本当にこの人高校生? て疑いたくなるくらいの貫禄。
他の先輩達もみんなかっこいい!
こんな部に入れるなんて本当に夢のよう!
なんて思いつつ、翌日から部活に参加。
そしたらそこでもっと凄いのと遭遇!
キセキの世代の一人の緑間が入るとは聞いてたけど、本当にアイツはキセキだった。
だって、センターラインからいきなり3P打っていれるし、更には反対サイドのゴール下からシュートって……。
もうなにアレ。
あんなのアリ?
普通にナシでしょう。
世界ビックリ人間ショーに出れる人って本当にいるんだなー、って心底感心。
でも天才にはそれなりに欠陥があるわけで、何と言っても性格が唯我独尊過ぎる。
先輩達も毎日緑間のワガママで青筋立ちまくり。
更に入部3日目には、ついに中谷監督から
「緑間のワガママは1日3回までだね」
って、前代未聞のお約束まで出ちゃう始末。
こんなヤツに友達なんて絶対に出来ない。出来たら奇跡。
なんて思ってたら、それがいたんだよ。マジで。
緑間のワガママにもびくともせず、逆に笑って過ごせるヤツが!
「もう、緑間マジサイコー!」
緑間が意味不明のことを言う度にそう言っては大笑いするのは、これまた凄いPGの高尾和成。
背は低いくせに、パスを出すタイミングがとにかく絶妙。
後ろや天井に目が付いてんじゃないかって思えるくらい。
でもって、これもなかなかイラッとくることを平気で言ってくれるいい性格をしている。
だからあの緑間とも普通に会話が出来ているのかもしれないんだけど……。
天才というのは本当にロクな性格な奴がいないんだなー、ということをこの部に入って嫌というほど実感。
あ、そうそう。ロクでもないといえば、緑間のラッキーアイテム。
この間なんか、部室に何でか知らないけど土鍋が置かれてて、それに気付かず歩いてたら思いっきりワントラップしちゃって。
「誰だよ、こんな所に土鍋なんか持ってきたヤツ!」
と言ってぶつけた足を摩ってたら、緑間にものすごい勢いで怒られた。
何でもそれは彼の今日のラッキーアイテムらしい。
緑間曰く、毎日おは朝を見てその日のラッキーアイテムを必ず身に付けるのだそうだ。
それで今日は土鍋だからそれを持ってきたのだと言う。
彼の頭は大丈夫なのか? と本気で心配になった。
その後で高尾と着替えが一緒になったからこのことを話してみたら、高尾もあれにはほとほと手を焼いているらしく、
「だっろー? もうオレも意味分かんないし」
と言って同意してくれた。
ああ、良かった。あれが変だと思っていたのは自分だけではない、ということを知って安心したのもつかの間。
「アイツさーこの間なんか『つり目の人』がラッキーアイテムだったらしくてー。で、オレ一日中アイツに付きあわされてさー! もう意味わかんねーし。だってさ、朝一で電話かかってくるから何事かって思ったら、『今日はオレに丸一日付き合うのだよ』とかなんとか言ってきてー。オレ朝ご飯からあいつと一緒だったんだぜ? それで学校も一緒に行って、トイレもどこ行くにしても全部オレ引っ張って行かれてさー。もう『おはよう』から『おやすみ』まで、みたいな感じになっちゃってー。おかげでクラスで変な噂が立っちゃうしでもうホント迷惑!」
とまあ、何だのと言っている割には、何だか一日中好きな子と一緒にいることができて嬉しい! と言わんばかりにとても目が輝いている高尾君でしたとさ。
めでたしめでたし。
てな具合で、彼の頭も大丈夫なのだろうか、とちょっと心配に。
ちなみにその翌日の緑間のラッキーアイテムは、でっかいハムスターみたいなキャラクターのぬいぐるみ。
190越えの長身の男子がファンシーなぬいぐるみ持つのって、どうなの?
そして、それを部活中も体育館に持ち込んでるって、それもどうなの?
ぬいぐるみは可愛いのに、持ってる人が変人だからもう意味が分からない。
でもって、ちょっと暇だったから待機中にベンチに置いてるそれをふにふにと突いて遊んでたら、いつの間にか緑間が背後に立っていて思いっきり怒られた。
目がマジで本気で怖いのなんのって。
「いや、あんまりにも可愛かったから、つい……」
なんて言い訳をしたら、緑間のヤツ、急にオレの星座を聞いたあとしばらく考えだした。
それから何を思ったのか、突然そのぬいぐるみをオレにくれて、「オマエは今日一日中それを持っておけ」と。
いや、別にいらないんだけど、と思いつつ逆らえる空気でもないから仕方なくぬいぐるみ持たされて…。
本当に意味が分からない。
そしてなぜか高尾がめちゃくちゃ睨んでくる。
それも意味が分からなかった。
他の先輩からは変な目で見られるし、ぬいぐるみ手放そうとしたら緑間に怒られるし。
もういろいろとイヤになってきたんで、やっぱり返そうと思って緑間と話してたら、今度は高尾から攻撃喰らうし……。
なんにせよ、その日は心身ともにとても痛い思いをしたわけで。
オレって本当に可哀想。
オレの可哀想さに全米が涙した!
もうそんな勢い。
まあ、そんなことがありつつ毎日厳しい練習に耐えつつで、ついに高校最初の公式試合である春の大会が!
なんて言っても、オレは観客席での応援なんだけど。
試合当日は会場での現地集合。
やっぱりこの空気には緊張するもんなんだなー、と思いながら建物を見上げて場の雰囲気を満喫。
いつかはオレもこの体育館のコート立ちたいなー、とか思っていると、ガラガラガラという変な音が聞こえてきた。
最初は気にせずにいたんだけど、徐々にものすごい勢いで大きくなってくるもんだから何事かと思って音の方を見ると、そこにとても信じられない物体が!
この平成のご時世に自転車にリアカーって。
しかも人乗ってるし……。
そんなもんで会場来るなんてどこのバカだよ、と思ってたら、何とそいつらがこっちに!
これは他人のフリするしかないよね、と思いながら顔の向きを会場に戻しつつ横目でこっそり見ていると更に衝撃の事実が判明。
リアカーの運転手も乗ってる人も秀徳のジャージ着てるし!
ていうか、思いっきり知ってる顔だった……。
「ジャンケンで交代って言ったくせに、結局オレばっかじゃんか!」
「オマエがじゃんけんに勝てないのが悪いのだろうが」
「でもさ、少しくらいは代わりに運転してやろうとかさ、なんか、そう言った気遣いとかないわけ?」
「勝負事にそんなものは必要ないだろう」
「いや、勝負事、って言ってもさー……! つか、なんてリアカーなんだよ!」
「自転車の二人乗りは道路交通法で禁止されているのだよ」
毎日短いけど日記をつけているわけだけど、改めて見返してみるとまだひと月しか経ってないのにいろいろあったなーと思うわけで。
日記の日付は4月6日の入学式から始まって、憧れのバスケ部を見学して感激したことからオレの日記は始まる。
先輩達が練習する体育館は、関東王者の名前そのもののオーラがあって、貫禄が凄すぎてでビビったのなんのって。
キャプテンの大坪さんなんか、本当にこの人高校生? て疑いたくなるくらいの貫禄。
他の先輩達もみんなかっこいい!
こんな部に入れるなんて本当に夢のよう!
なんて思いつつ、翌日から部活に参加。
そしたらそこでもっと凄いのと遭遇!
キセキの世代の一人の緑間が入るとは聞いてたけど、本当にアイツはキセキだった。
だって、センターラインからいきなり3P打っていれるし、更には反対サイドのゴール下からシュートって……。
もうなにアレ。
あんなのアリ?
普通にナシでしょう。
世界ビックリ人間ショーに出れる人って本当にいるんだなー、って心底感心。
でも天才にはそれなりに欠陥があるわけで、何と言っても性格が唯我独尊過ぎる。
先輩達も毎日緑間のワガママで青筋立ちまくり。
更に入部3日目には、ついに中谷監督から
「緑間のワガママは1日3回までだね」
って、前代未聞のお約束まで出ちゃう始末。
こんなヤツに友達なんて絶対に出来ない。出来たら奇跡。
なんて思ってたら、それがいたんだよ。マジで。
緑間のワガママにもびくともせず、逆に笑って過ごせるヤツが!
「もう、緑間マジサイコー!」
緑間が意味不明のことを言う度にそう言っては大笑いするのは、これまた凄いPGの高尾和成。
背は低いくせに、パスを出すタイミングがとにかく絶妙。
後ろや天井に目が付いてんじゃないかって思えるくらい。
でもって、これもなかなかイラッとくることを平気で言ってくれるいい性格をしている。
だからあの緑間とも普通に会話が出来ているのかもしれないんだけど……。
天才というのは本当にロクな性格な奴がいないんだなー、ということをこの部に入って嫌というほど実感。
あ、そうそう。ロクでもないといえば、緑間のラッキーアイテム。
この間なんか、部室に何でか知らないけど土鍋が置かれてて、それに気付かず歩いてたら思いっきりワントラップしちゃって。
「誰だよ、こんな所に土鍋なんか持ってきたヤツ!」
と言ってぶつけた足を摩ってたら、緑間にものすごい勢いで怒られた。
何でもそれは彼の今日のラッキーアイテムらしい。
緑間曰く、毎日おは朝を見てその日のラッキーアイテムを必ず身に付けるのだそうだ。
それで今日は土鍋だからそれを持ってきたのだと言う。
彼の頭は大丈夫なのか? と本気で心配になった。
その後で高尾と着替えが一緒になったからこのことを話してみたら、高尾もあれにはほとほと手を焼いているらしく、
「だっろー? もうオレも意味分かんないし」
と言って同意してくれた。
ああ、良かった。あれが変だと思っていたのは自分だけではない、ということを知って安心したのもつかの間。
「アイツさーこの間なんか『つり目の人』がラッキーアイテムだったらしくてー。で、オレ一日中アイツに付きあわされてさー! もう意味わかんねーし。だってさ、朝一で電話かかってくるから何事かって思ったら、『今日はオレに丸一日付き合うのだよ』とかなんとか言ってきてー。オレ朝ご飯からあいつと一緒だったんだぜ? それで学校も一緒に行って、トイレもどこ行くにしても全部オレ引っ張って行かれてさー。もう『おはよう』から『おやすみ』まで、みたいな感じになっちゃってー。おかげでクラスで変な噂が立っちゃうしでもうホント迷惑!」
とまあ、何だのと言っている割には、何だか一日中好きな子と一緒にいることができて嬉しい! と言わんばかりにとても目が輝いている高尾君でしたとさ。
めでたしめでたし。
てな具合で、彼の頭も大丈夫なのだろうか、とちょっと心配に。
ちなみにその翌日の緑間のラッキーアイテムは、でっかいハムスターみたいなキャラクターのぬいぐるみ。
190越えの長身の男子がファンシーなぬいぐるみ持つのって、どうなの?
そして、それを部活中も体育館に持ち込んでるって、それもどうなの?
ぬいぐるみは可愛いのに、持ってる人が変人だからもう意味が分からない。
でもって、ちょっと暇だったから待機中にベンチに置いてるそれをふにふにと突いて遊んでたら、いつの間にか緑間が背後に立っていて思いっきり怒られた。
目がマジで本気で怖いのなんのって。
「いや、あんまりにも可愛かったから、つい……」
なんて言い訳をしたら、緑間のヤツ、急にオレの星座を聞いたあとしばらく考えだした。
それから何を思ったのか、突然そのぬいぐるみをオレにくれて、「オマエは今日一日中それを持っておけ」と。
いや、別にいらないんだけど、と思いつつ逆らえる空気でもないから仕方なくぬいぐるみ持たされて…。
本当に意味が分からない。
そしてなぜか高尾がめちゃくちゃ睨んでくる。
それも意味が分からなかった。
他の先輩からは変な目で見られるし、ぬいぐるみ手放そうとしたら緑間に怒られるし。
もういろいろとイヤになってきたんで、やっぱり返そうと思って緑間と話してたら、今度は高尾から攻撃喰らうし……。
なんにせよ、その日は心身ともにとても痛い思いをしたわけで。
オレって本当に可哀想。
オレの可哀想さに全米が涙した!
もうそんな勢い。
まあ、そんなことがありつつ毎日厳しい練習に耐えつつで、ついに高校最初の公式試合である春の大会が!
なんて言っても、オレは観客席での応援なんだけど。
試合当日は会場での現地集合。
やっぱりこの空気には緊張するもんなんだなー、と思いながら建物を見上げて場の雰囲気を満喫。
いつかはオレもこの体育館のコート立ちたいなー、とか思っていると、ガラガラガラという変な音が聞こえてきた。
最初は気にせずにいたんだけど、徐々にものすごい勢いで大きくなってくるもんだから何事かと思って音の方を見ると、そこにとても信じられない物体が!
この平成のご時世に自転車にリアカーって。
しかも人乗ってるし……。
そんなもんで会場来るなんてどこのバカだよ、と思ってたら、何とそいつらがこっちに!
これは他人のフリするしかないよね、と思いながら顔の向きを会場に戻しつつ横目でこっそり見ていると更に衝撃の事実が判明。
リアカーの運転手も乗ってる人も秀徳のジャージ着てるし!
ていうか、思いっきり知ってる顔だった……。
「ジャンケンで交代って言ったくせに、結局オレばっかじゃんか!」
「オマエがじゃんけんに勝てないのが悪いのだろうが」
「でもさ、少しくらいは代わりに運転してやろうとかさ、なんか、そう言った気遣いとかないわけ?」
「勝負事にそんなものは必要ないだろう」
「いや、勝負事、って言ってもさー……! つか、なんてリアカーなんだよ!」
「自転車の二人乗りは道路交通法で禁止されているのだよ」
作品名:とある秀徳バスケ部員の日記 ー 4月の総括 ー 作家名:いっしー