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シオンとライナでSFしてみた(腐向け・原作バレ要素込)

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眩しさに目を細める。窓の外からは擬似太陽からの光が差し込み、コロニー全体に朝を告げていた。
 シオンがベッドに潜り込んだのはコロニーの天幕が少し薄明るくなった頃。今はそのホログラムが変わり、爽やかな薄青を映している。

「睡眠時間2時間かぁ……結構寝たな」

 規則正しく設定された通りの色合いを見せる人工的な空は、それだけで時計代わりになってしまう。もう少しくらい変則的に、自然な変化を与えてもいいのではないかと思う。もっともシオンは生まれてこのかた、自然で気まぐれな変化を見せる本物の空を見たことがなかったが。
 ふあ、と軽く欠伸。
 枕元のタイマーを確認すれば、予定よりも5分早い起床。タイマーをリセットし、既に適温に暖められた床に足を降ろす。温い布団が恋しいとは思わなかった。同じくらい室内は快適な室温に保たれている。
 部屋に掛けられた重力に従ってややほつれた三編みが落ちてくる。長い銀髪は無重力空間で解いた状態でいると邪魔なので常に結っているが、重力のある場所にいると少々重たく感じる。
 今日も多忙な一日が始まる。長い髪の重さなど気にならないくらいの疲労が鉛のように自身にのしかかるのだろう。
 軽く身支度を整えて寝室を出た。公務時の服のまま仮眠を取ったから多少皴が気になる。
 どうせ執務室から出ないんだし、まあ、いいか。多忙の末に身につけた妥協で納得。
 ふわりと身体が軽くなり、サイドの編み込んでいない銀髪が舞う。微重力空間に出たのだ。
 ここはまだコロニーの首長たるシオンのプライベート空間内なので、人はそれほど多くない。もう少し先に行けば、清掃員と清掃用ロボットが仕事に勤しんでいることだろう。
 ほとんどシオン専用のエレベーターに乗れば執務室はすぐそこだ。軽い浮遊感を伴って上昇するエレベーターとは対照的に、昨晩崩した書類と残ってしまった案件を比較して若干暗い気分になる。
 エレベーターを降りると同時に身体に負荷。再び重力が戻ってくる。

「……あれ、ライナ?」

 執務室のドアを開ければ、昨晩仕事が一区切りつくと同時に脱兎の勢いで逃げ出した男の姿があった。
 寝癖だらけの頭でデスクに突っ伏している。シオンより先に帰った睡眠大好きな彼のことだ。きっと自分よりも遥かに睡眠時間を確保しているはずなのに、まだ彼は眠いらしい。

「俺より先に仕事始めるのは偉いんだけど、途中で諦めちゃってるのはなぁ」

 ライナのデスクにはシオンが昨晩残してしまった案件が乗っている。それらは三分の一ほどは終わっているが残りは手付かずのままだ。
 怠惰と睡眠をこよなく愛するこの親友が、自分よりも少し早く来て仕事をやっていたというだけで目を見張りそうになる。正直、全部やっておいてほしかったなと思うのは贅沢が過ぎるのかもしれない。
 ただ重力に逆らって無造作に跳ねる黒髪の寝癖は若干恨めしかった。自分の銀髪は大人しく重力に従っているというのに、この寝癖の反骨精神は一体なんなのだ。
 シオンは何も言わない。突っ伏したままのライナを優しく揺すって起こしてやることもしない。
 できるだけ気配を殺して、自分のデスクに着く。
 傍らのキーを操作。執務室の管理システムにアクセス。環境設定を呼び出す。このフロア全体の警戒レベルを下げる――警報が鳴らないように。
 そこまでして、シオンはとある項目の設定バーを、指先一つで最大値手前まで上げた。

「っ、う……」

 シオンが小さく呻く。みしり、と部屋が軋んだ。
 異常を感知してモニターに警告が点滅。同時に警報が鳴るが、事前に切ってあるので耳をつんざく大音量は聞こえない。緊急事態を伝えるシステムにも干渉済み=警備に連絡が行くことはない。

「ぐ、っあ……ああああなんだコレくそ重てぇぇええ……!!!!」

 過重力を加えて3秒。シオンの方が先に音を上げる前にライナがようやく顔を上げた。
 顔を上げたところでパネルで設定できるだけの最大まで重力が掛かっているので、僅かに動かすだけに留まる。
 指先を動かすのも辛い。シオンはどうにかキーを操作。緊急モード=対侵入者用の過重力をオフ。
 はっ、と息を吐き出せば一気に肺が酸素に満たされる。ライナもシオンと同じように肩で息をしていた。
 未だ呼吸は安定しない。それでもシオンは気力で笑顔を浮かべ余裕を見せ付ける。

「ああ、おはようライナ」
「てめ、シオン! 朝早くから出勤した俺に対する仕打ちがこれか!?」

 ライナが勢い良く立ち上がる。
 通常の重力しか掛かっていない室内で勢いをつければ、その分の力に従って椅子が後方に倒れる。いくら身構えていても倒れる際の音に肩が跳ねてしまう。
 びしっと人差し指をシオンに突き付けるライナ。その黒髪の寝癖はやはりぴょんぴょん跳ねまくっている。恐ろしいことに過重力を掛けても寝癖はへこたれなかったのだ。
 予想外の反骨精神にシオンは拍手。憤るライナをおいて、ぱちぱちとちょっと間抜けな音。
 こちらに指を突き付けるライナもどうしていいのか分からなくなったらしい。指先はふらふらとし始め、眉は情けなくハの字になった。

「訳分かんねぇ……なんで俺ってば朝っぱらからいきなり体重増やされたり拍手されたりしてんの?」
「ライナの寝癖がどれだけ反骨精神に溢れてるか確認。おめでとうライナ! 君の寝癖は《聖星》の重力下でも元気にやる気なく跳ねていられることが証明されたぞ!」
「……おまえナニ人様に《聖星》の重力掛けちゃってんの!?」
「別にライナにだけ掛けた訳じゃないって。部屋全体に掛けたから、俺も同じ重さ味わってる。いやあ、重かったよな、ライナ」
「いやだからさぁ……」

 ライナがぱたり、と腕を下ろし脱力する。同時にはあ、と重い溜息。こちらを見る顔にはありありと「もうだめだこいつ」と書いてある。

「《聖星》か……帰れたところで、あんな力が掛かるところで生きていけるのかな。俺達」
「さあな」

 デスクに戻ったライナは再び突っ伏す。シオンの問いに対する声も投げやりだ。
 コロニーの遥か先。展望台にある千里眼を用いてようやく見えるか見えないかのところにある蒼い球体。
 長く続く外での歴史は繰り返し、三つしかなかったコロニーは幾重にも分裂した。今ではコロニーが至る所に存在し、その一つ一つに国家が存在する。どのコロニーも始めはその蒼い球体に帰郷することだけを考えていたのだ。だのに、どこかで間違った。あの《聖星》に相応しいのは我らだと、どのコロニーの人々も主張している。

「あんな重たいところじゃ寝返り打つのも大変そうだな」
「確かにな。俺もこの髪が重くなりそうで帰りたくなくなってきた」
「切りゃいいじゃん」
「そういう訳にもいかないんだなーこれが」
「うわっうぜぇー」

 あははと冗談めかしてシオンが笑う。ライナはぐだっと全身をデスクに預けた。

「じゃあ今日も全部のコロニーのみんなで《聖星》に帰れるように、お仕事頑張りますか」
「帰りたくないんじゃなかったのかよ」
「それはそれ、これはこれ」

 やる気の欠片も見られず文句ばかり言うライナだが、彼も自分と同じようにあの蒼に恋していることを知っている。