見えない星は光っているか
「 ながれぼしがくるまでかえらないの! 」
―――…あれはいつのことだろう。
小学生?いや、それよりももっと前のことだったかもしれない。
曇っていて、星なんか一つも見えない夜空をひたすら見上げているあいつの姿を見て。
自分は、なんて罪深い人間なんだろうと思った。
((( 見えない星は光っているか )))
いつからだっただろう。
自分が、皆とはちょっと違うんだって感じ始めたのは。
自分がとても、弱い人間なんだと感じ始めたのは。
「 こんなもん、いらねえよ! 」
…ああ、自分は何をしているんだ。
床には沢山の四葉のクローバーやら星型のアメが転がっていて。
それを見つめる月子の表情は、とても悲しく歪んでいて。
ただ、自分がやってはいけないことをしてしまったということだけは確かだった。
けれど、俺の口から紡がれるのは思っていることとは逆の言葉だ。
「 おまえらになにがわかるんだよ!おれのいたみがわかるかよ! 」
「 かなちゃん、あのねっ 」
「 わかんないだろ!?こんなにおれはいたいのに、わからないだろ!? 」
ああ、もうそれ以上言葉を発するな自分。
心のどこかではそうストッパーをかけているはずなのに、幼かった俺はそれの存在に気づかなかった。
月子が、こんなにも悲しい表情をしているのに。
こんなにも、泣きそうな顔をしているのに。
それは、俺の6歳の誕生日のことだった。
俺の誕生日に3人で、天体観測をしようと前々から約束していた。
けれど誕生日の前日、俺は高熱を出してしまったのだ。
まるで脳みそが浮遊しているような不思議な感覚で、意識ももうろうとしていて。
心なしか、心臓がものすごくズキズキと痛んだ。
心配性な両親はすぐに病院に連れて行き、6歳の誕生日は病院で過ごすことになってしまったのだ。
せっかくの誕生日なのに。
そう勝手に腹を立てていて、そんな時に月子と錫也が笑顔で手をつないで来たものだから、一層腹がたったのだ。
そして、月子が笑顔でくれた四葉のクローバーとアメを叩き落としてしまったというわけだ。
―――…叩いた瞬間の月子の顔は、今でも忘れられない。
「 つきこ、いこう 」
「 でも、すずちゃん… 」
「 かなた、ちょっとつかれてるんだよ。 おやすみさせてあげよう 」
ああ、ほらまただ。
当たり前のように、錫也と月子は手をつないだ。
子供同士が手をつなぐことなんて大したことではない。
けれどその頃の俺は、そんな当然を考えられる程に大人ではなかったのだ。
心配そうに俺の方を振り返る月子。
そんな月子に向かって俺は、はやくかえれよ、と酷い言葉を発する。
月子と錫也が病室を出て行った後に、自然と涙がぼろぼろとこぼれた。
作品名:見えない星は光っているか 作家名:透子