鉄のラインバレルログまとめ(森次受中心)
ホチキス(山下と森次)
ぱちん、ぱちん。
空調のよく効いた部屋に、書類をまとめる音だけがある。青年はペンを走らせ、少年は積まれた紙の山を切り崩して纏めていた。
青年が走らせるペンはとても滑らかで、戸惑いがない。誰が見ても綺麗だと思う字は、全くといっていいほど癖がなく機械的だ。青年が一枚書き終える毎に、山がほんの僅かに高くなる。少年が手を伸ばす山の隣に出来上がる新たな山は、青年の手書きの書類だけが積まれていた。
ぱちん、と一束まとめたところで少年が口を開いた。
「森次さーん、書類書くの早過ぎっスよー。これじゃあ留め切れないっス」
一旦ホチキスを机に置き、山下は言った。手が疲れたのか、右手を軽く振っている。目の前には留められていないコピーの山。そんなことをしている間にまた一枚、手書きの山に積み重ねられる。
「お前が『ホチキスで留めるのは得意だから任せろ』と言ったんだろう」
森次が書類から視線をずらし、山下の方を見た。少年のおかげで仕事の負担は軽減されているが、量が量だけに軽減分も微々たるものでしかない。
「そりゃそうですけど! こんなにあるなんて思わなかった……」
はぁ、と重い溜息が消える前に山下はまた、ぱちんと書類を留めた。ぱさりと重なった紙の束の量も、それなりの高さになっている。
森次も一旦ペンを置き机の引き出しに手を伸ばした。
ぱちん。山下はその様子を横目で見つつ、しっかり一束留める。
森次が取り出したのはホチキスだった。先程まで山下が手を伸ばしていた山から一束取り、左端にホチキスを添えた。
ぱちん
森次が手にした書類をホチキスで留めた音だった。
それまで無表情に淡々と仕事をしていた森次の顔が、僅かに歪んだ。山下もこそりと溜息を吐いた。
「………………」
「あーもう、やっぱり森次さんは大人しく書類書いてください。ボクの方が断然ホチキス留め得意ですから」
じっと自身が留めた書類を見つめる森次から、山下がそれを奪った。留められたばかりの書類の左端はずれていて、ぐにゃりと紙が浮いていた。
山下はホチキスの先の針抜きを使って、その針を抜いた。とん、ともう一度綺麗に揃えてホチキスを添える。
ぱちん
山下が留めた書類は端がしっかりと揃っていて、歪んだり浮いたりしていない。
森次が、ちょっと悔しそうな顔をした。山下は得意そうににっこりと笑ってみせる。
「なんでも出来そうな森次さんなのに、書類留めるの苦手って、なんか……」
「それ以上戯言を言う暇があったら、さっさと手を動かせ」
「はーい」
ふいっと明らか様に目を逸らした森次に、山下は小さく笑った。
080906
作品名:鉄のラインバレルログまとめ(森次受中心) 作家名:てい