鉄のラインバレルログまとめ(森次受中心)
「子供がそんな気を使う必要はないだろう」
三歩分の差は埋まっていた。再び森次の隣に並んだ早瀬は、彼を見上げて黒曜石を覗き込んだ。
彼は気付いているだろうか。出会った頃はそれなりにあった身長差も、たった二ヶ月で大分埋まったことを。今の早瀬は森次よりも若干低いだけで、二人の身長にそれほどの差はなかった。
自分は制服を着た学生で、彼は格式張った黒衣の社会人。まだ子供扱いされるのも、実際は仕方ないことなのかもしれない。
「子供とか、そんなこと関係ないですよ」
愛だとか恋だとか、彼に抱くこの感情の正確な名前は分からない。ただ出来ることなら、この朝の一時をもっと違う形に発展させたかった。話したいことなら、山ほどある。そして、聞きたいことはそれ以上に。
「その時がきたら、森次さんだって覚悟決めてくださいね」
自転車に跨がり、早瀬は不敵に笑んでみせた。それでもやはり、子供の強がりにしか映らないのだろうか。森次は少し目を見開いただけだった。
彼と歩くのはほんの僅かな距離。早瀬は毎朝これだけの会話のために、登校ルートを大きく迂回する。そろそろここで別れなければ、裏山に抜ける細道を過ぎてしまう。
「また明日、森次さん」
これから今日が始まるというのに、二人の朝はここで終わる。朝日が澄んだままの時間帯で告げられた別れの言葉は、街の胎動に飲み込まれた。
「……また明日」
やけに穏やかに呟かれた一方の言葉も、やはり自転車を漕ぐ早瀬の耳には届かないのだ。
090307
元ネタは自転車のアルベルトのCM見て妄想した、と言ってみても一体誰が信じるのだろうか。
作品名:鉄のラインバレルログまとめ(森次受中心) 作家名:てい