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彼方セブンチェンジログまとめ(腐向け)

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※暴力表現を含みます。ご注意ください。



「ブログ……ですか」

 そうだ、と田中の上司にあたる男は頷いた。

「ファンに蒼希くんをより身近な存在だと感じてもらうには、蒼希くん自身が自分のことを発信していくのが一番だろうということでな。なに、芸能人だけではなく一般の人もやっているものだ。そう固く考えるものではないよ」

 男は朗らかに笑うが、田中は愛想笑いすら浮かべられそうになかった。ははは、と乾いた笑い声が口から零れる。
 雑誌のインタビューも予めインタビュー内容を聞いておいて、こちらが用意した回答を彼方に言わせていた。
 彼方が自分の言葉で情報を発信?

 そんなの出来る訳ねぇだろjk。

 あら嫌だわ田中さんってばネット社会に毒されすぎよ。
 渇いた笑いを浮かべながら、田中の内心では見知らぬおばさんがツッコミを入れていた。だがしかし、無理なものは無理である。何てったって理が無い。無秩序、カオス、無法地帯エトセトラエトセトラ。
 そんな状態を正すのは自分の仕事な訳で。つまり彼方がブログを始めると同時に田中の仕事も増えてしまう。
 ああ、芸能人とマネージャーの仕事率の比例関係!
 がっくりと膝を付かなかったのは奇跡に近い。どうにかははははと笑い続け、田中はその場を後にした。



「ブログ、ですか?」

 きょっとーん、とピンクの目を丸くして彼方が聞き返す。
 その手にはペンとネタ帳。記される字体は丁寧で読みやすい。ついついその文章を読んでしまったが、書かれていたのは普通にすごく残念な感じの内容だった(アイドル的な意味で)。

「なんでもお前をもっと身近な存在にしよう、ってことらしい」
「分かりました!」

 ネタ帳を机に叩き付け、勢いよく彼方が立ち上がる。

「腰切の衣装ですね!」
「変換ミス! つーかゆとり怖ぇぇええー!」

 説明しよう、腰切とは腰の辺りまでの長さの仕事着である。漢字で書くと「短」、読みは「みじか」。
 ちなみにご存知の方が大半だと思うが「身近」の読みは「みぢか」だぞ☆
 間違っても「みじか」で入力して変換しNEEEEEEEE!!と携帯に責任なすりつけなんて、良い子は真似しちゃいけません。
 田中は深呼吸を一回、二回、三回。ツッコミを入れようと思うと全力で叫んでしまうのは悪い癖だ。
 こほん、と咳ばらいもして話を切り替える。

「ブログ自体はどういうものか知ってるよな? それで、だ。マネージャーとしてお前に直接ブログを書かせる訳にはいかない」

 何の注意もせず、「お前が思ったことを書いていけ」などと言ってブログを始めたらどうなるか。結果は明らかだ。
 そう、机に叩き付けられたネタ帳がウェブ上にそのまま載ってしまうようなものである。

「ブログに載せる内容を一回俺にメールで送信しろ。俺がチェックして大丈夫だったら、そのままブログ宛に送信。ダメだった場合は訂正箇所直して、もう一回俺に見せる。俺がOK出すまでブログには送らない。分かったか?」

 田中が考えたのは自分の負担にはなるものの、一番堅実な方法だった。
 彼方がブログにおかしなことを書いて、その時責任を問われるのは田中だ。それを考えたら、これくらいのことは別に負担の内には入らないだろう。何てったって保身の為なのだから。

「でもオレ、田中さんのアドレス知らないンすけど」
「そうだったか?」

 確か電話番号と一緒に教えたはずなんだが。
 まあ、本人が知らないというのなら知らないのだろう。むしろ今まで知らなかったという方が驚きだ。思えば連絡はほぼ電話だったから、知らなくても不思議ではないのかもしれない。

「じゃあ携帯。赤外線対応してるよな?」
「はい」

 妙に嬉しそうな顔をして彼方が携帯を取り出す。
 送るぞー、送りますよー、の短いやり取りでアドレス交換終了。彼方がボケることなく済んだので、田中はちょっと拍子抜けした。
 だがしかし、罠は至る所に張り巡らされているものである。

「ってこのプロフィール画像はなんだ!」
「よく撮れてるでしょ? オレの自慢の一枚です!」
「よし分かった、そんなに田中ローリングソバットを食らいたいかそうかそうか」
「すみません、調子に乗りました!」

 ガチガチと震える手で彼方は携帯電話を操作/プロフィール編集=デフォルトの「No photo」に/即刻田中が携帯を奪ってプロフィールを確認/変哲のない画面に安堵の息/携帯を返却――この一連の流れの所有時間30秒。
 ちなみに。編集前にアドレス交換をした田中の携帯電話内のアドレス帳には、彼方が全身タイツに身を包み、乳首を洗濯ばさみで挟んで身悶えているプロフィール画像で登録済み。
 あとでアドレス編集で画像消そう、そうしよう、否、そうせねばならぬ、と田中は決心を新たに再び咳ばらい。

「ブログは今日の夜には始められるそうだ。いつも言っているように、あくまで! クールに! スマートに! アイドルとしてファンを幻滅させないようにな。間違っても今回のような画像は載せるなよ!」
「えー、でも自信作くらいは……」
「 ダ メ だ 」
「分かりました、今回は光の加減が甘かったんですね。載せるときは太陽の下で解き放とうと思います」
「何をだ!? お前何を解き放つつもりだ!?」
「嫌だなもう、全部言わせないでくださいよぅ」
「ええい、頬を染めるな! 身をくねらせるな!」

 思わず蹴り出しそうになった右足を押さえて田中は呻いた。ここで蹴り上げたら、彼方唯一の美点とも言える顔に傷がついてしまう。間違っても爪先で思いきり顎を蹴り上げるなんて、そんな真似は――

「どうしたんスか田中さんっ! はっ、まさか邪気眼が……!!」

ドゴッ!

「足に目ついてるってか、足に目ついてるって言うのかオマエは」

 ひざ頭を鳩尾に入れるのはセーフだと思う、多分。
 鳩尾に強烈な一撃を喰らった彼方は膝をついた。そしてぷるぷると震えながらも大変イイ笑顔で親指をグッと立てる。
 これ以上会話していると、次は踵をうっかり落としてしまいそうだ。田中は、某海賊モノの特徴的な眉毛のコックがうっかり足を出してしまう気持ちがジャンプ1ページの厚さくらいには分かった。

「俺はこのあと打ち合わせだが、ちゃんと夜にブログ更新するんだぞ」

 そう言って田中が彼方の控室を去る。彼方は今度こそ、がっちりサムアップしたままばったりと倒れ込んだ。



 某音楽チャートで6週連続一位の曲が傍らの携帯から流れた。田中が携帯を取ってディスプレイを確認すると、全身タイツに身を包んだ例の彼方の画像が表示されている。
 そういえば登録したまま変更していなかった、と冷静な判断で着信の内容を確認する前に設定を操作。例の画像を消去。

「さて、と」

 彼方から連絡がきたということは、きちんと言い付け通りブログを書いたのだろう。カチカチと手慣れた操作でメールを開く。


【件名】春巻うまい

【本文】
今日からブログを始めることになりました。
蒼希彼方です。

初めてのことなので何を書いていいのか緊張しています。
なので、緊張をほぐすために少しストレッチしてみました^^

(添付画像)