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彼方セブンチェンジログまとめ(腐向け)

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クリスマスネタ




「え、じゃあこのケーキ田中さんの手作りなんスか?」

 クリスマスだから、とお約束通り用意されたケーキ。
 お約束通り顔面をケーキに押し付けられた彼方はその後、勿体ないからと顔についたケーキを指で掬って食べていた。

「買ったやつじゃなくて?」

 彼方は顔についたクリームを舐める。手作りにありがちなべたっとした感じはなく、舌触りは滑らか。本当に自分のマネージャーが作ったものなのか、と顔のケーキを食べる毎に信じられなくなってくる。
 自分が言ったことを彼方がなかなか信用しないからか、はたまた彼方をケーキに押し付けた際に指先についてしまったクリームが不愉快なのか。田中は顔を顰めて答えを返した。

「ああ、お前の顔に押し付けるためだけに、わざわざ小綺麗な高いケーキを買うのも嫌だったんでな」

 田中の指先についたクリームは、拭き取るには少々多い。舐めから拭き取って、手を洗えばいいか。
 そう思って田中が人差し指を口元に運ぶ寸前――

「あー、田中さん! そのクリーム、オレが舐めるんで自分で舐めちゃダメっスよ!」

 ぎゃー! という悲鳴を混ぜながら彼方が叫んだ。呆れて彼の方を見れば、顔にはスポンジとクリームが残っている。

「自分の顔を先に何とかしたらどうだ」
「だって折角田中さんがオレのために作ってくれたケーキなんですよ!? 全部自分の腹に収めたいッ!」
「喚くなやかましいっ」

 ぱくっ、と。
 彼方に見せ付けるようにして指先を含めば、彼方は声なき叫びを上げて田中を凝視。その瞳には「信じらんない」の六文字がぐるぐると旋回していた。

「た、田中さんの鬼畜眼鏡っ……」

 この場にもう1ホールあったならば迷わず彼方の顔面に投擲していたに違いない。
 ケーキ塗れの顔で本気で落ち込む彼方に、田中は掛けるべき言葉を持ち合わせていない。だって指先気持ち悪かったし。彼方に舐め取らせたら間違いなくおかしな方向に行きそうだったし。

「あー……そんなに落ち込む程のことか? お前、そんなに甘いの好きじゃないだろう」
「田中さんのケーキだから良かったんです」

 真っ直ぐに田中を見つめて、彼方は断言した。
 田中が自分でクリームを舐め取った指を取ると、彼方は何もない指先を舌でぺろりと舐めた。

「なっ……」

 こうならないように、と田中は自分でクリームを舐め取ったのに全てが水の泡だ。
 彼方は指で顔のクリームを取っていたので、掴まれた手が溶けた油脂で少しべたべたする。
 彼方の舌先が田中の指を付け根から舐め上げる。
「ん」と小さく声を上げて、彼方がその指先を口内に導いた。生暖かさが田中の指先に絡み付き、何とも言えない感覚にびくりと肩を跳ねさせる。
 人差し指の第一関節を甘噛みされ、田中は慌てて相手の名を呼ぼうとした。
 温い舌先が緩やかに熱を与えていく。手のべたつきを認識し、その認識を経た視界の情報はどこまでも青臭いあの光景を脳から引きずり出してくる。

「かな、た……!」

 ようやく口にした名に、相手が伏せていた目をゆるゆると上げた。長い睫毛を伏せて、その隙間から宝石のような美しい瞳が田中を射抜く。
 田中の指を咥えたまま、薄く彼方が笑った。
 ケーキ塗れだというのに、どうしてコイツは恰好がつくんだ。
 無理矢理吐いた悪態。彼方の顔に未だに残るクリームも欲望の果てに思えてきて、田中はやっとこの場に降伏するしかないのだと悟った。

「そんなにケーキが食いたきゃ、俺の家に来い……」
「へ?」

 彼方は、この空気で何を言い出すんだこの人は、という言葉をそのまま表情にした。
 田中としても、年下の男にやられてばかりでは気が済まない。汚れていなかった左手を、ケーキ塗れの彼方の顔に添わせる。そのべたつきに白い欲望がちらと白い舌先を覗かせる。

「……直接言わないと分からないか?」

 お前、馬鹿だもんなぁ。
 呆れたようにしみじみと田中が言う。
 途端に言葉の意味を理解したのか、彼方の顔がぱっと明るくなった。無邪気な顔で笑いながらも、その唇は正反対の言葉を吐き出した。

「分かんないっス。オレ馬鹿だから、田中さんの口から直接言ってもらわないと」

 分かり切っているくせに。
 そう言おうとして、それはお互い様だと自嘲する。年下の男の子にほだされた大人、というのはそれなりに魅力溢れる肩書だ。

「俺はお前にケーキをやるから、」
「オレは田中さんに食べられればいいんですね」

 薄っぺらい理性で劣情を隠し通して、二人で小さく笑った。


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