コードギアスログまとめ(スザク受け中心)
ばいばい、明日は遠く落ちていった(死ネタ・ジノとスザク)
カツカツカツ、と傷も埃もない床を真っ黒なブーツは踏み鳴らす。
スザクは綺麗に整えられた道よりも、獣道のような土の上を歩いていた年月の方が長かったから、こうしてラウンズに昇格した今でも硬い靴底の音に慣れはこない。どことなく、すべて弾き返されている気分になるのだ、革靴の足音は。吸い込まれそうな空間であるのに、音は響いて、そして受け止められずに跳ね返る。
「じゃあ明日はナナリー殿下と一緒に式典参加?」
政庁内をジノとスザクは歩く。当然足音は二つだ。歩幅の違いからか、二つの足音にはばらつきがある。一つは音の間隔が広く、深く沈み込むような音。もう一つは一定の間隔で細かく刻まれ、浅く次々と音を連ねていく。前者がジノで、後者がスザクだ。
「そうだね。ナイトメアはあくまでお飾りだけど……出発前にある程度調整しておいた方がいいかもしれない」
「いざって時に困るもんな」
ジノは手にしたファイルで自分の肩をとんとんと叩いた。スザクは構わず前へと進む。
「まあ、いざってことはないと思うけど」
「うん? なんか言ったか、スザク」
「なにも」
ここにいないアーニャは今、ナナリーの元で明日の式典に関する確認をしている。述べる祝辞から退路の道順まで、アーニャのことたがらさらりと流す程度の確認しかしないだろうが、やるのとやらないのでは全く違う。前日の確認事項が当日、頭の片隅に少しでも残っていれば良いのだ。
確認はするが、恐らく式は何も起こらず滞りなく終わるだろう。あらかじめ式典にはナナリーが出ることを知らせてある。そして何よりも、今回の式典がナナリーが自ら参加したいと言ったものなのだ。
確かに、あの反逆者が妹を奪還するには絶好のチャンスだろう。しかしそれは、ナナリーの意志を無視する形となる。どれだけ素顔を隠しても、彼の行動は妹中心。その点だけなら、それほど警備に頭を捻る必要もなかった。
「じゃあ、僕はこっちだから」
スザクはナイトメアの調整、ジノは警備配置の確認。
「またな、スザク」
スザクと別れることは名残惜しかったが、互いに仕事と責任がある。ジノは当たり前のように理解していたから、これといって一時的な別れに感慨も何も抱くはずがなかった。
しかしそれは、スザクが発したことばであっという間に拡散する。
「ばいばい、ジノ」
左の道へと曲がろうとするスザクの手を、慌ててジノは掴んだ。言葉で引き止めるよりも早く、だ。
「え……あの、ジノ?」
「スザク、それは駄目だ!」
「へ?」
ジノは噛み付くように言った。眉をぎゅうと上げて、その目は険しい。スザクは豹変したジノの態度に、訳が分からず首を傾げた。
「その言い方は、駄目だ」
「その言い方、って……」
ジノはきつく言うが、スザクには何のことだか皆目見当がつかない。先程までの自分の発言に何か失態があったのだろうか。順を追って回想していくが、特に思い当たる失言はないように思う。
スザクは掴まれた左手に顔を顰めそうになりながらも、右手だけで降参のポーズを取った。時間も圧していることだし、早く解放してもらいたい。
「ジノ、申し訳ないけど僕には君の言いたいことがさっぱり分からないよ」
困った顔をしたスザクを見て、ようやくジノも冷静さを取り戻したらしい。スザクの左手が解放された。
「ごめん、手痛かったろ?」
「いや、平気だよ……っと、ごめんジノ、時間がないから理由は明日聞くよ!」
「っ、おい、スザク!」
言うか早いか、スザクは角を曲がって向こう側へと消えていった。
ぞくりと、ジノの背筋を形容しがたい何かが走った。
式典当日。
スザクの予想は半分当たり、半分外れた。
黒の騎士団ではなく違うテログループが式典に乱入してきたのだ。ナイトメアなど必要としないゲリラ戦。それが当然であるかのように、スザクが先陣を切って走り出した。
「スザク!」
ジノが叫ぶ。
少しだけ振り返ったスザクが、ジノを見て唇を動かした。
「 」
スザクがジノに向けて言おうとした言葉も
スザク、もう一度叫ぼうとしたジノの声も
劈くような銃声に掻き消された。
(なあ、スザク、知ってるか?)
(“See you.”も“Good bye.”も別れの言葉ではあるけれど)
(“Good bye.”は、二度と会わないときに言うんだ、明日の約束をするときには言わないんだよ)
「ばいばい、スザク。また明日」
白の部屋に横たわるスザクに、ジノは痛々しい笑顔を向けて、部屋を出た。
080807
・“Good bye.”の定義は怪しいですが、確かそうだったと思います(うろ覚え)
ばいばい、ってカタカナ表記よりもひらがな表記の方が別れっぽい。
作品名:コードギアスログまとめ(スザク受け中心) 作家名:てい