コードギアスログまとめ(スザク受け中心)
仮面は林檎を愛す(特派)
ぱきり、と何かが割れる音がした。
いや、違う。これは砕ける音だ。
誰かの靴底が、ひっそりと仮面を踏み潰した。
「スザクくんってさー」
「なんですか?」
「両腕で抱えられる以上のもの、抱えようとしてるでしょ?」
「そう……かもしれません」
困ったような笑みを向けられて、ボクはより笑みを深めた。口元を歪めた。
彼の笑みは自覚しているからこそ、どうしようもないと諦めた者の笑みなのだろうか。
それとも、無自覚を指摘されまだ自分では認めたくないと、抗う者の笑みなのか。
「林檎を、さ。こうやって腕に一杯抱えたって落ちるでしょ?」
カタンと座っていた椅子が音を立てた。
言葉に合わせて自分の手を目一杯広げて見せる。彼はボクに背を向けてランスロットに乗っているから、ボクの動作なんて見ようがないのに。
ああ、あるいは彼なら後ろに目が付いていると言われても信じられるかもしれない。
「目一杯抱えてもさ、ちょっとバランス崩せば落としちゃうよ? 落とした一個を拾おうとして、また一個落として、二個拾おうとして三つ目を落とす。不毛じゃない? それって」
キィ、と再び腰掛けた椅子が軋む。
この安っぽい音が好きだ、と主張したら、きっと自分の奇人っぷりがまた一つ晒されるのかな、とぼんやり思った。
「落としませんよ」
「へぇ」
「落とさないように、抱え込める力も訓練も、一杯してきましたから」
ピッピッピッ……と水色の折れ線が規定値を更新していく。波打って、引いて、押し寄せて。電子の海の縮図だ。
「頑張ったんだねぇ」
「……はい」
声音で感情を測定する機械があればいいのに。彼の声は喜色なのか、憂いているのか。光のスペクトルで表せられる範囲でいいから、ヒトの感情を七色に分けて視覚的にしてもらいたい。
セシルくんがこの場にいなくてよかった。まーた、にっこり笑われて何言われるか堪ったもんじゃない。
「じゃあさ」
「はい?」
「落ちた林檎はどうするの?」
「いえ、僕は落とさないので、」
「そうじゃなくてさァ」
実際に彼の顔が目の前にあったら、ボクは喜々として意地の悪い笑みで覗き込んでいただろう。
相手の心の機微を読めずとも、顔色は伺える。瞳を覗き込めば、向こうも自分も距離の錯覚に飲み込まれる。
トン、とデスクに肘をついて姿勢を崩した。
「初めっから落ちてた林檎は? もう抱え切れないのに、まだ拾うの?」
「…………拾って」
「拾って?」
「食べてしまうかも、しれません」
ボクの方へと振り返って、彼は眉を下げて言った。
その困惑は、その時にならないと分からないという意味なのかな。それとも――口を突いて出た、自分の回答に、かな?
「ふふっ、いいねぇ、君は。何もかも規格外で」
「いいことなんですか?」
「善し悪しだよ」
ごろり、と何かが落ちて転がる音がした。
ぐしゃり、とみずみずしくも肉を伴った確かな音がした。
仮面を粉砕した靴底で、二人で一斉に真っ赤な果実を踏み潰した。
080519(080524)
作品名:コードギアスログまとめ(スザク受け中心) 作家名:てい