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その日は、

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その日は、幸せな1日でした。



頭を撫でられる感覚に、うっとりしながら目を開けようとして止めた。まだこの感覚を味わいたい。
リボーンは昨日、厄介な仕事を一つ終わらせて硝煙の香りをその身に纏い、帰ってきた。
いつもの黒ずくめの服。血がこびり付いていて、俺は心配したのにそれは全部帰り血だった。

『この俺がヘマするとでも思ったのか?』
意地悪そうに笑う、その笑みに俺は膨れながらも絶対的信頼を寄せている。
世界最強のヒットマンは、今日も健在。

「おい、起きてんだろ?」
突然鼻を摘ままれて、俺はゆっくりと目を開けた。
「寝たふりしてんなよ。」
「…もう少し寝てたかったんだもん。」
いい歳して子供っぽい喋り方だとは思ったけど、これもリボーンの前だけ。
中学生のころからの俺を知るリボーンにだけ見せる素顔。

ボンゴレファミリーのボスになった俺は、部下の前では血も涙も無い恐ろしい男になる。

「今日の予定は?ボス。」
「特にないよ。」
「はぁ?」
そんなわけないだろ、と、リボーンが俺を視線で責める。
「ほんとだよ。」
やらなきゃいけない書類は昨日までに全部目を通した。

まぁ、もう少しやらなきゃいけないことは確かにあるけれど、それは後で良い。

「あの、さ。」
言いにくそうに口ごもる俺を見て、リボーンはニヤリと嫌な笑みを浮かべる。
読心術を使われたんだろう、俺の言いたいことはもうわかったはずだ。
「何だよ?」
「…わかるだろ?」
「わかんねぇな。」
ニヤニヤといやらしい笑みでとぼけるリボーンに俺は真っ赤になりながら、言葉を紡いだ。

「今回のリボーンの仕事、長かったじゃん?」
「ああ、約3カ月だな。」
「俺は、その間ちゃーんと、…良い子に待ってたんだよ。」
「くっ、その歳で『良い子』もねぇだろ。」
笑われて、俺はますます赤くなる。
「リボーンはどうせ仕事先でたっくさん女性とイイコトしたんだろうけど、俺は3カ月もの間一人で待ってたんだよ!」
「…だから?」
俺の言葉の先を促す顔のなんと憎らしいこと。
そりゃ、こんな朝日がサンサンと指す中、俺の望むことがどれだけはしたないことかちゃんとわかってはいるけど…。

「・・・もう少しイチャイチャしようよ。」

むくれて言った俺の言葉にリボーンはとうとう噴き出した。

「イチャイチャ、ねぇ?」
「…嫌なら良いけど。」
「はっきり言って嫌だな。」
ズキンと胸が痛くなる。恋人らしい甘いことをリボーンが嫌いなことはわかってる。けど、そんなはっきり言わなくても良いのに。
仕方なしにベッドから起きようとしたその瞬間、またベッドに引き戻された。
そして背中に口付けられ、呟かれた。

「『イチャイチャ』なんて、わけわかんねぇ言葉使わねぇで、正直に言えよ。」
「っ…。」
「『抱いて』ってな。」

この大人の色香には何年たっても勝てる気はしない。

作品名:その日は、 作家名:阿古屋珠