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草@ついった
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雨に濡れた猫

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ざあざあと降る雨の中、肌が肌を打つ乾いた音と低い声がやけにはっきりと響き渡った。明確に拒絶の意思を持って向けられた視線が帝人の身体に存在し得ない重力を感じさせる。帝人の目の前には折原臨也という見慣れた人物でありながら、見慣れない感情をむき出しにした彼が立っていて。戸惑いと恐怖が帝人に声を発することを拒絶した。
思えば彼はいつも余裕だった。


「こんにちは、帝人くん」
「…こんにちは、臨也さん。どうしたんですか?学校まで来て…」
「んー?何だか急に君に会いたくなってね!来ちゃったよ」


嘘つき、と心の中で呟く。帝人は臨也が囁く愛の言葉が信じられずにいた。それは彼が常日頃人間愛を叫んでいるからでもあるが、それ以上に帝人は臨也が自分に本当の感情を見せているようには到底思えずにいた。
僅かに顔をしかめる帝人を見てくすりと笑い、臨也はくるりと帝人に背を向けゆっくりと歩き出した。


「臨也さん?」
「君の顔を見て満足したよ。シズちゃんに会いたくないし今日はもう帰るね。またね、帝人くん」


顔だけで振り返り帝人に向けた笑顔は余裕に満ち溢れており、感情をむき出しにすることなどあり得ないように思えた。
 しかし今帝人の目の前には、体中に怪我を負い荒い呼吸を繰り返しながらも力強く彼を睨みつけるその人がいる。
 その日は普段と変わらぬ日常、いつも通りの帰り道のはずだった。しかし今日は視界がうっすらと白くなるほどの大雨が降っており、大量の雨粒が帝人の傘を景気よく叩いていた。今月自由に使えるお金はいくら残ってたっけ、今日の夜ご飯は何を食べよう、そんなことをぼんやりとした思考の中で思案しながら見慣れた路地を歩く。しばらく歩いた後、うにゃあというか細い声が帝人の耳に届いた。見ればそこには小さな段ボールが電柱の陰にぽつりと置かれており、申し訳程度に布がかけられている。中を覗けばびしょぬれの子猫がぐったりとした様子で丸まっていた。


「捨て猫…?」


返事をするかのようににぃ、と子猫が先ほどよりも細い声で鳴いた。帝人はしばし迷ったが、自身の住むアパートでのペットが禁止されていることを思い出し、未だに鳴き続ける子猫の頭を軽くなでると段ボールに雨が当たらぬよう傘をその場に置いた。幸い風はそれほど強くなく、うまい具合に子猫を雨から守ることができそうであった。濡れないということを理解したのか、子猫は濡れた体をかわかそうと全身をくまなく舐め始める。そんな子猫を濡れることも厭わず頬笑みながら見つめ、その場を去ろうとした帝人の視界に何か黒いものが飛び込んできた。


「…臨也さん…?」


それは最近になってすっかり見慣れた人物であった。黒い服で全身を包み、池袋最強と言われる平和島静雄と対等に渡り合ういつも余裕そうに笑う情報屋、折原臨也その人で。しかし雨に濡れたその身体からはところどころ血がにじみ出ていた。ぐったりとした様子で壁に寄りかかっており、うつむいているためにその表情は見えなかった。
瞬間驚き呆けていた帝人だったが、すぐに我に返り臨也へと駆け寄る。臨也は帝人に気がつき、ゆっくりと頭を上げ視線を帝人へと向けた。


「臨也さん…!ど…どうしたんですか!?その傷…」
「何でもない」
「何でもないって…。とりあえず病院…」
「いらない」
「…じゃ、じゃあ…肩かしますから…」


何を言っても突き放すように冷たく返される言葉に、このままでは埒があかないと判断した帝人は肩を貸そうと臨也へと手を伸ばした。目の前の臨也の身体がビクリと震えたかと思ったその瞬間、帝人の右手に鋭い痛みが走った。同時にパシンと乾いた音が帝人の耳に届く。帝人はその音をどこか他人事のように聴いていた。


「触るな」


手をはじかれた直後に聴こえたその声は、ひどく冷たいものだった。息が荒い中であってもしっかりと放たれたその言葉が帝人へと突き刺さる。
今まで聴いたこともないような声色と視線に体が震えるのを感じながらも、帝人は拳をぎゅっと握り泣きそうになる自分を抑え込んだ。帝人の前から去ろうとする臨也の腕をぐっと掴み、臨也が何かを言う前にキッと睨みつける。


「駄目、です」
「…離して」
「なに言ってるんですか!そんな傷で…とにかく救急車…」


電話をかけようと鞄から携帯を取りだしボタンを押そうと指を動かしたが、臨也がそれを払い落したことによって阻止された。


「病院、は、やめて。頼むから、さ…」


弱々しく告げられたそれに小さく帝人がうなずくのを見ると、臨也は安堵したように息を吐きずるりと壁伝いに倒れこんだ。慌てた帝人は携帯電話に手を伸ばし、再びボタンを押しかけたが寸でのところで踏みとどまり、携帯電話を自身の鞄の中へとしまいこむ。そしてピクリとも動かなくなった臨也の顔をおそるおそる覗きこんだ。どうやら気を失っているらしいことを確認し、自分よりも幾分か背の高い臨也をひきずるように背負い歩き出す。


「どうしよう、どこか、休める場所……この近くじゃ僕の家しか、無いかぁ…」


残りの家路のことを考え、帝人はすでに疲労感を感じた。背中にかかる重みと濡れて肌に張り付く服の感触に顔をしかめながら、今日どうしてここを通ったんだろう、などとぼやく。しかしその声色には、僅かな歓喜の色が見え隠れしていたのだが。



*



 臨也が目を覚ました時、彼は一瞬自分がどこにいるのかがわからなかった。ただ一つ、目に入る薄汚れた天井と、自分がいつも使っているベッドとは正反対の固い床の感触が、臨也にここが自宅でないことを告げていた。ぼんやりとしていた意識が、傷の痛みも手伝って徐々に覚醒していく。ゆっくりと起き上がり、こじんまりとした台所に見慣れた背中を確認したところで、臨也は現状を理解すると同時に倒れる以前の状況を思い出し軽く舌打ちした。その音で臨也が起きたことに気付いたのか、湯気のたつカップを片手に持った帝人がゆるりとした動作で振り向く。


「気がついたみたいですね、よかった…。ここお風呂無いんで申し訳ないんですけど、これコーンスープです。体冷えたら、風邪ひいちゃいますし」


心配そうな顔で自分を見つめる帝人の様子に、臨也は思わず笑いがこみ上げてきた。


「ふうん…助けたんだ?冷たく対応されてそれでも助けるなんて、流石来るもの拒まずなダラーズの創始者様だね?」
「……目の前で倒れてる人を放っておくなんてできませんよ、少なくとも僕には」
「へえ…随分とまあ良い子だね。反吐が出るくらいに」


嘲笑にも等しい笑いをこらえようともしないまま、臨也は帰宅するために立ち上がろうとした。しかしそれは叶わず、グラリと傾いた体はとっさに手を伸ばした帝人によって支えられる。大丈夫ですか?と掛けられた声に、苛立ちが爆発しそうになるのを臨也はどこか他人事のように感じていた。


「ねえ、帝人くん…俺が傷を負ってボロボロな体で雨の中を歩いている、それは君が恋焦がれて止まない非日常そのものだろう?だから君は俺を助けたんだ。違うかい?」
「臨也さん」
作品名:雨に濡れた猫 作家名:草@ついった