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かなや@金谷
かなや@金谷
novelistID. 2154
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弁当男子

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「せんぱーい」

 あの人が可愛いと思ったことがあるという甘えた声を上げて僕は扉を開けた。教室内の視線が僕に集まっているが、いつものことだ。慌てているのでいつもならする一礼を忘れて、目的の机へと駆けだした。
 教室中の注目を浴びているが、後輩が先輩の教室に駆け込んでくるというのはあまりないことだろう。毎日続けている自分としては慣れてしまったし、それなりに目立たなければ意味がないことも理解している。演出は大事なことだ。
 ただ入ってきた瞬間に、僕の用事は終わってしまった。杞憂は晴れたのだ。今まさに、先輩は問題の弁当に口を付けていたところだった。
 母親のために作られたそれは、カロリー的な意味でも、内容的な意味でも、平均的な男子高校生用にしては物足りない仕様となっている。それを心配していたのだが、慌てて走り込んで俺を見上げながら、もぐもぐと口を動かしながら首を傾げている。覗き込めば中身はそれなりに減っていた。

「すみません、先輩」
「どうしたの? 青葉君」

 口に入っていたモノを租借してから先輩は口を開いた。

「よかった。すみません、実は母のお弁当と間違えてしまって」

 先輩は驚いていたが納得してくれたようで、むしろ母を心配してくれた。どこまでもお人好しなのところがらしくて笑ってしまった。
 むしろ、いつものより嬉しいと言われたことには腹が立ったが、母や自分のとは違い、先輩のにはとても気を遣って作っている。とくに見栄えの面を強化しているのだが、そういったことには気付いてくれそうにもない。
 だが、その後に煮物が沢山でと付け加えられたことで、ああこの人も家庭の味に飢えているのだなと溜飲も下がった。なによりも、先輩には野菜が足りない。それを付け加えて、今後はそうしますと告げ俺は教室を後にした。妙にざわついていたが、気にならない。美味しいと言って貰えたことがこんなにも嬉しいとは思わなかった。


 翌日の弁当には気合いを入れた。リベンジだからだ。昨日渡し損なった分念には念を入れた。いい予行練習になってしまったが、この完成度の高さを維持出来たと思えばいい。
 会心の出来映えに仕上がったそれを、何度も確認しながら俺は鞄に詰めた。
 これを見たときの先輩の反応を思うと、今から楽しみで仕方がない。


 帰り道。容器を返すという名目で俺達は待ち合わせをして帰る。なにか用があるときでも、容器を返すために会うことは出来るので都合がいい。とは、先輩の弁だ。
 主にメモの内容ばかりで、中身にはさほど興味を持ってくれなかった先輩だが、あれには流石に何かを言わざるをえないだろう。
 色々と先輩の反応を考えてみたが、

『気持ち悪いよ』
 そう蔑むのか。
『恥ずかしいからやめて』
 そう人の良い笑顔で照れるのか。
『僕もだよ……』
 と頬を染めるのか、ああこれはないな、ない。
『ふざけるなら、もうしないで』
 そう怒るだろうか、彼にとってはあくまで演出だ。
 いや、あの人のことだから、
『また、誰かのと間違えたの?』
 しれっと言い放つかもしれない。

 どんな反応をするか考えるだけで楽しく、放課後が楽しみで仕方がなかった。その瞬間が目前に迫っている。


「あのね、青葉君。お願いがあるんだけど……」
「なんですか、先輩?」

 ああ、ついに来た。この人のお願いは頼み事ではなく俺にとっては命令と同等のものだ。つまりは、そうしろと言っているのだ。さあ、なにが来るのかと次の言葉を待ちかまえる。

「こういうの止めて欲しいんだ」

 そう来たか、わりと普通の反応だった。弁当に散りばめられた装飾は愛情故ではなく。演出として受け取られているらしい。先輩にとっては、手段よりも目的の方が大事なのだから、メモさえ入っていればいいのだ。
 だからこそ、今までの過剰な先輩曰くの演出も、周囲への目眩ましと思っている。
 それだけで、あんなものを毎日作るはずはないというのに、そのことには気付かない。他にも目立たない手段もいくらでもあるだろうし、むしろ、目立たない手段を選べばいいはずなのに、人目を惹く手段を選んでいる辺りが先輩の先輩たるところだろう。後輩からのお弁当という非日常を楽しんでいる。そして、それもう彼は日常として、普通のこととして受け入れてしまっている。
 こんなタチの悪い遊びはいつ終わらされても仕方がない。だいたい仕込んだ内容が悪かった。余りにも反応をしないあの人への当てつけもあったが、『センパイLOVE』は確かにやり過ぎだったとは思う。

「僕、でんぶ苦手なんだ。それだけは、止めてくれないかな」
「えっ? あっ、はい、わかりました」
「じゃあ、ありがとう。美味しかったよ」
「あっ、はい。お疲れ様です」

 えっ、それだけ? でんぶ、でんぶなのか、だってLOVEだよ、愛。まさか蓋に着いていて文字読めなかったとかないよな。いや、それでもハートは崩れないはずだ。
 そこはスルーなのか、面白い、これだからこの人は止められない。楽しくて仕方がない。
 まさか、こんな反応をするとは思わなかった。ああ、この興奮を聞かせたい、聞いて貰いたい。
 今だけ、俺の電話よ盗聴されろと思う。そうだ、折原臨也、俺の話を聞け、俺達の愛しいあの人の姿を見せてやりたい。いや、見れた俺を羨ましがればいい。
 短縮に登録してある仲間の元に電話を掛ける。逸る気持ちがコール音をもどかしく感じさせる。


「なぁ、ちょっと聞いてくれよ……」


【終】
作品名:弁当男子 作家名:かなや@金谷