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平和より平穏を嫌う貴方だから

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 自分に脅えて苛立たせるあの子供はすっかり過去へと置いてきていた。
「でもほんとごめんなさい。こんなに寝てしまって。雲雀さんのご予定を大分変更させてしまったんじゃないですか?起こして下さっても良かったんですよ?」
「煩い」
「——すみません」
 それでも悪びれずに肩をすくめて謝る仕草に異国の気配を感じる。
 ドーン!ドーン!!と続いて打ち上げられる花火をしばらく並んで眺める。そういえば、二人で花火を見るのは初めてだった。
 綱吉が、雲雀が自然とお互いの顔を見る。
 綱吉は不意に先ほど見た夢を思い出した。雲雀が玄関から入ってくることになったエピソードを。
 雲雀はさきほど摘んだ綱吉の唇の感触を思い出した。いつもとんでもないことを言い出す元凶を。
 雲雀さん、と言い始めた綱吉の口に、雲雀は自分の唇をおしつけた。
 なんで綱吉を寝たままにさせたのか、予定を変更させてまで綱吉の眠りを守ったのか、もっと正確に言うと綱吉を自分の手元に置いておきたかったのか、その理由がみつかった。
「きみほどの浮気性の男は見たことがない」
「はぁぁ!?何を言っちゃってるんですか?」
 自分は京子ちゃん一筋ですよ、と言いかける唇を今度は押し倒されて塞がれる。自分に覆い被さる雲雀の背中をぽんぽん叩くが雲雀が痛がるわけが無い。
「んー!んー!!」
 必死でもがいて、雲雀の浴衣の肩を掴む。その手首は易々と板の間に縫い止められて、口内を舌でまさぐられる。
 はぁ、と呼吸を継ぐ間を狙って綱吉は蹴り上げようとするが、着慣れない浴衣の裾が足に絡まるばかりだ。それすらも、雲雀は自分の足をつかって押さえ込む。露わになる肩口に唇を這わすと綱吉の肌にざっと鳥肌がたつのがわかった。
「ちょっと、雲雀さん、ってば!」
 左手をバタバタと振るそれを抑えようと動く雲雀の隙を縫って、綱吉の右手拳が雲雀の鳩尾にのめりこんだ。
 ダメージは少なかったが、雲雀はわずかに呼吸を吐いて、綱吉を抑えてつけていた四肢から力を抜いた。
 綱吉は長い息を吐いて自分の上に倒れ込む雲雀の背中をぽんぽんと叩いた。先ほどと違って宥めるが如く。
「雲雀さん、アンタどうしたんですか?何、欲情しちゃってんの」
「きみを独り占めにしようと思った」
「え?」
 雲雀はそれ以上話すことは無く綱吉の体をぎゅっと抱く。
 性的欲求を感じさせない雲雀の抱擁に綱吉は抱きかえすことは無いが、寝ていたときのように脱力して雲雀に身を委ねる。
「雲雀さんが何を考えているのか、俺には全然わかんないけど、貴方、意図があるようで無いことが多いのはちゃんとわかってます。でもって、誰にも言えない重大なことが一つあるんですが聞いてもらえますか?」
 自分に覆い被さる雲雀の襟をもって引っ張ると、動揺の欠片も残していない雲雀のぬばたまの眸が自分を映す。
「俺のファーストキスが雲雀恭弥だなんて恥ずかしくて誰にも言えやしません」
「僕もだよ」
 必死で無かったことにしようと恥ずかしいと思う意識を遠ざけていた綱吉の努力は徒労に終わった。
 雲雀の素直な告白にぶわっと顔に血が上る。ハタチを過ぎて自分達は一体なにをやっているんだと、一人であたふたする。考えつく限りの悲惨な修羅場を数え切れないほど乗り越えてきたけれど、たかがキス一つでおたつくなんてボンゴレ10代目として恥ずかしい!という気持ちもあるけれど、反対に初めてだから対処の仕方がわからないのかも、という素晴らしい解決方法が脳裏に浮かぶ。
 ——そうだよ。同性とのキスだなんて誰だって驚くよね。雲雀さんだって、だって、だって…。
 同じ『初めて』でも自分と雲雀は、受動的で能動的ということで、それには天地ほどの差がある。自分にとっては出会い頭の事故みたいなものだけど、雲雀にとっては。
 綱吉はそちら側へいきかけた思考を必死で止める。
 雲雀の気の迷いだとぶんぶんと頭を振る。
 そうだ、こうやって密着しているのがいけないんだ。いつもの距離に離れればきっと落ち着くだろうと雲雀をどかせようと腕をつっぱる。拍子抜けするぐらいあっさりと雲雀は体を起こして綱吉から離れた。乱れた浴衣も気にせずに身の安全を確保した綱吉が安心する間もなく、柱へと背中を預ける雲雀は綱吉を抱き起こして立てた膝の間におさめて背後から抱きしめた。
「——雲雀、さん?」
「うん。これだと花火がよく見える」
「ええと、離れて見てもいいと思うんですけど」
「だって、きみ逃げるじゃない」
「ええ、そりゃ逃げますねぇ」
「だから離さないよ」
「——意味がわかりません」
「僕は今の君が好ましい。だから口づけたし、一緒にいたいと思う」
 耳元でのうのうと言い放たれて綱吉は返す刀を失った。
「ほら、そろそろ終わってしまうよ」
 くい、と背後から顎を上げられて視界が暗い日本庭園から、花火がいっぱいに広がる夜空に変わる。雲雀が言うように次々と打ち上げられて火薬の匂いが漂い始めた。
 きっと母親とイーピン達もこの花火を見上げているだろう。もしかしたら俺の浴衣も準備していたかもしれない。もしかしたら山本や獄寺くんもウチに迎えに来たかも知れない。
「ひあっ!」
 ぼんやりとそう考えている綱吉の耳たぶを雲雀がぺろりと舐めた。
 予期せぬ濡れた感触に腰から冷たいものが背筋を駆け上がる。
「そうやって君はすぐ他の人でいっぱいにする。僕といるときは僕のことだけ考えればいい」
 そう言って雲雀は綱吉の肩口に顎を乗せる。頬が触れあって綱吉はもう雲雀以外のことを考える余裕がなくなった。耳をつんざく火薬が弾ける音も、ただよう匂いも、空気の震えもどうでもよくなって、綱吉は自分を包む男のことで頭がいっぱいになる。
 雲雀との口づけの感触や、告白の言葉や、背後から接触する体温しか考えられなくなる。
 一際大きく輝いて金銀の光を暗闇にばらまいて最後の花火が終わった。
 やっと花火は終わった。
 けれど、綱吉は動けなかった。
 どこも拘束されていないのに、雲雀の体温と息遣いに囚われて動けなかった。
「——綱吉」
 名前を呼ばれてぎこちなく振り返る。
 途端に上がる心拍数。
 重なる唇。
 深い口づけ。
 執着を見せない男が初めて見せたそれに、心が囚われてしまった。


 了