二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

無音世界

INDEX|9ページ/13ページ|

次のページ前のページ
 

「そう」
 伝えて新羅から返ってきた言葉はそれだけだった。どうせならもっと糾弾なりなんなりしてくれたほうがよかった。静雄は拳を握る。
 だが、しんと静まり返ったこの部屋に居ることこそが詰られているような錯覚にとらわれた。オロオロとセルティが事態を見守っているのが見えて、逆になにやら申し訳なくなってくる。
「……昨日静雄が臨也にやったこと。それ全てが原因ではないとは断定できない。でもね――」
「いい。もう分かった」
 医者である彼に「君のせいじゃない」と言ってほしいわけではなかった。聞きたいわけでもない。
 静雄は再び座ることはせず、そのまま部屋を出た。引き留める声は後ろから掛かってこなかった。
 感情のままにそのまま拳を壁に向けることができればどんなによかっただろう。恐らく今そんなことをすれば新羅の住居の一角の壁は見事に崩れるに違いない。しかしその時の静雄は力を物にぶつけることによって発散するのではなく、自らに向けた。先ほどから握っている拳は既に爪を掌に喰い込ませている。
 のろのろと廊下を進んでいると、先ほど臨也を入れた部屋の前に戻ってきていた。きちんと扉を閉められたその向こう側で彼はまだ苦しそうな呼吸を繰り返しているのだろうか。
 静雄は握っていた拳を開き、右手でドアに触れた。それで中の様子が分かるわけでもない。見えるわけでもない。
 しかし、開けて中に入る資格は自分にあるのだろうか?
 静雄は額を扉に当てる。額はこつりと小さな音を立て、右手は無意識のうちに爪を立てた。
 そうしてどれほど立ちつくしていたのだろう。新羅もセルティも静雄がまだ家を出て行ってはいないということは分かっていると思う。だが、どちらも此方へはやってこなかった。
 静雄は漸く額を離すと、右手でドアノブを掴んだ。かちゃりと音を立ててゆっくりと侵入した部屋の中は、不安をそのまま現す様な色で覆われていた。





作品名:無音世界 作家名:佐和棗