旅立ちの日は
「大丈夫だよ。真宵ちゃんがいないのが当たり前にならないように、ぼくの隣にスキマを開けておくから。いつでも居場所はあるからね。」
顔を背けてモゴモゴという成歩堂に真宵は問いかける。
‥‥ねぇ、なるほどくん。その言葉、いつまで有効?十年?二十年‥‥?
ヒトの心はいつかは変わってしまう。でも、今だけは、貴方だけは、信じていたい。
――――それは永久に変わらぬ想いだ、と。
「‥‥じゃあ、待ってて。なるほどくんの隣、開けて待ってて?」
「うん。」
本当はスーツケースに詰めきれないほどのカタチのない大切なモノをなるほどくんから貰った。きっと、あたしには持ちきれないほど、たくさん。そういうモノを心をたくさん詰めて変わっていく。あたしも‥‥なるほどくんも。
きっと明日からの日常はあたしのいないなるほどくんの日常で、なるほどくんのいないあたしの日常。それでも、流れていく時間。‥‥動き出した時間は、止まってはくれない。
最後まで見届けたかったけれど、それは無理だから‥‥せめて。
せめて涙で“サヨナラ”じゃなくて、笑顔で“またね”って言いたい。
――――これは終わりの日じゃなくて、きっとあたしとなるほどくんの新しいはじまりの日、だから。
「じゃあ、いこうか。」
成歩堂が真宵の手をひいて事務所を出る。
今日はもう泣かない、笑顔でいるんだ、と真宵は決意する。
――――本当に辛くなるのは、お互いの存在がいないことになれた頃で、良い。