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彼の目的は知っている。私の母が破滅させられたあの事件の真相を、手に入れる。
その為に私は弁護士になり―――彼は検事になった。
同じ目的を持っているのに歩む道が正反対とはおかしいものだが、私が彼の憎むべき綾里舞子の娘ということを考えれば、これはこれでいいのかもしれない。
「法廷で貴女を見たとき同じ光を感じた。貴女も目的があって弁護士になったのならば立ち止まっているヒマなどないはずだ。必要以上に過去を振り返ることは、ない。」
(そう‥‥‥ね。)
もうあの事件から10年以上も経った。確かに立ち止まっているヒマなどないのかもしれない。
「そう‥‥ですね。」
同じ目的を持ちながら協力できないなんて寂しいけれど―――。
(そうだ。)
千尋はタオルを持って立ち上がった。
「これ、今度洗って持ってきます、ね。」
「あ、いや‥‥‥それ、は‥‥。」
「今度また立ち寄らせてもらっていいですか?お茶にあうお菓子を持って参りますから。」
―――それもまた縁。
何かを言おうとした御剣だったが千尋の有無を言わさぬ勢いとその笑顔に押されて何も言えなくなってしまう。‥‥仕方ないので目を逸らして呟く。
「‥‥好きにすると、いい。」
「それでは‥‥。あ、御剣検事知っていましたか?」
「な、何だろうか?」
御剣は驚いたようにドア口にいた千尋を振り返る。
「私、ある人に憧れて弁護士になったんです。」
もしかしたら彼の天才ぶりは受け継がれたもの、なのかもしれない。
「御剣信弁護士‥‥。‥‥貴方のお父様、です。不幸にもある事件で命を落としてしまいましたが。」
御剣は視線を落とすと悲しげに笑った。
「私も、あの人に憧れて弁護士を目指した時があった。」
千尋は上を向いて微笑んだ。
「下を向かないで下さい。‥‥怜侍さん。」
人の運命なんて不思議な縁。‥‥その全てを理解することはできないけれど――――。
「下を向くのは‥‥祈る時だけで十分、です。」
「‥‥そうだな。」
御剣は顔を上げるとぎこちなく微笑んだ。
―――せめて今、この縁だけは大切にしたい。


「弁護士‥‥か。」
千尋が部屋を去った後、御剣はため息をついた。その響きに疎ましさと少しのまぶしさを感じるのはかつて私自身も目指していたから、だろうか。
―――DL6号事件。あの事件で弁護した弁護士。あの時、私は検事を目指すことを決めた。父を殺されて尚、被告人を信じられる程‥‥そこまで私はお人好しではなかったから。バカにはなりきれなかったから。
―――強くはなかった、から。
(貴方は私と同じ傷を負っているはずなのに、どうしてそんなに強くあれるのか‥‥その理由が‥‥知りたい。)
―――千尋さん。私が本当に強かったら‥‥父を殺されても被告人を信じられる程強かったら‥‥。
私は弁護士になっていただろう。
(そして、その方が―――。)
どんなにか楽だったろうに‥‥な。
(彼らは罪を逃れるためならどんな嘘でもつく。見分けることなんて‥‥できない。それならば‥‥私に出来ることは唯一つ。被告人を全て有罪にする。‥‥それが私のルール、だ。)
(貴方がどんな証言をしようと、私は貴方を信じる。最後まで貴方を弁護するわ!)
あの事件を追うために弁護士になった彼女と検事になった私。―――どちらが正しいのかは、分からない。
唯一つ分かることは彼女は依頼人を唯、無罪にするだけの弁護士ではない、ということだ。
彼女には言わなかったが、御剣は千尋が綾里家の人間であることを知っていた。―――唯、言ってしまえば彼女が負い目を感じる、と思った。
彼女には私のような負い目や暗い過去を持って欲しく、ない。‥‥‥もう、これ以上、は。
彼女は私と違ってそんなくだらない怒りに追われなくても立派に弁護士でいられる、から。
そしていつか、彼女が法廷に立つ勇気を取り戻せる‥‥‥そんな日が訪れたら――――。
その時は是非お手合わせ願いたいものだ。綾里弁護士‥‥いや、千尋さん。


千尋はデパートの紅茶売り場で鼻をクンクンさせた。
(この香り、じゃ‥‥ないな。)
何しろ先輩の影響で今までコーヒーしか飲んだことがない。
(何て言ってたっけな、あれは‥‥‥。)
「コレ、じゃねえのか?」
言われるままに差しだされる紅茶の香りを嗅いでみる。
(これ、だ‥‥‥!)
間違い、ない。この香り‥‥。
「アールグレイ‥‥そうか、なるほど!ありがとうございます!」
そして教えてくれた人物を見ようと振り返った。
「せ‥‥先輩!?」
そこにいたのは紛れもない、神之木荘龍だった。
「クッ‥‥‥。今日はコーヒーじゃねえのか。珍しい、な。もしかして‥‥。」
ニヤリと笑うと千尋の耳元で囁く。
「天才コネコちゃんの影響、か?」
図星だったので千尋は赤くなる。
「せ、先輩!からかわないで下さい!」
千尋はその紅茶を買うと笑って逃げる神之木の後を追いかけた。

作品名: 作家名:ゆず