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となりの静雄さん・2

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小学校の近くまで来ると入学式を終えた親子がちらほらといるのがわかった。
子供はマシなのもいるが、着飾った親はとてもよく目立つ。
俺の姿を見て警戒を露にする親達となるべく眼を合わせないようにして、俺は小学校の校門前まで辿り着いた。
辿り着くまでの間、正臣に出会うことはなかった。
きっとトムさんのことだからそのままお祝いだと遊びか食事に出掛けたのかもしれない。
正臣の笑顔が見たかったのに・・・。
俺はガッカリしてため息を吐いた。

その時、視界に嫌なものが入り込む。
校門から少し離れたところにある昇降口。
その中に本来いてはいけない人間が存在しているのだ。
しかもそれは体の上に何かを乗せている。
母親譲りで色素が薄く、父親譲りでストレートな髪をした少年・・・・・・正臣だ。



気が付けば走り出していた。
正臣が立ち上がってノミ蟲から離れたのを見た俺はそのままヤツの首根っこを掴んで外へと全力でブン投げた。
何か首にノミ蟲では無いものがあった気がするが、そんな細かいことは気にしない。
とにかく俺の正臣に触りやがったあのクソノミ蟲を捻り潰し殴り殺すっ!!

・・・いや、待て。
今俺は何を考えていた?俺の、正臣?
いつから正臣は自分のものになった。
正臣はトムさんとヴァローナの息子であって、俺のものじゃねえ。
そもそも所有権を主張するような物でもねえだろ。
なんだ?なんで俺は正臣を俺のものだと思ったんだ?
相手は子供で、しかも男だ。有り得ねえよ。
・・・何を有り得ないと思ったんだ?
まさか、まさか俺は恋愛感情でも抱いてんのか?
そんなはずねぇ!!

考えに集中していると突然袖を引かれる。
そちらを見れば正臣が頬を染めて何とも言えない顔をして俺を見上げていた。


「あの、しずおさん・・・」

「なんだ・・・あ、大丈夫か?あのノミ蟲になんかされなかったか?」

「え、いや、それはだいじょーぶっすけど・・・えと・・・」


しどろもどろとしてハッキリ言おうとしない正臣に、どうしたのかと目線を合わせてしゃがむと正臣が顔を少し近づけて口の周りを囲うように手を当て、小声でしゃべった。


「・・・あの・・・ぜんぶ、こえにでてる・・・っす」


何が?と問いただそうとしたが正臣は顔を真っ赤にしてそれを手で覆うように隠していた。
声に出てる・・・俺は何か言っただろうか?


「へええぇ~、シズちゃんがねえぇ・・・まさかねえ?」


声に振り返るとノミ蟲が泣きじゃくる少年を抱えて立っていた。


「てめぇ・・・」

「おーっと、暴力は止めてよー?でないとそこのまさおみ君が泣くことになるからね」

「てめぇを殴ろうが殺そうが正臣には関係ねぇだろっ!」


さすがに目の前で殺したらマズイだろうとは思う。
正臣は未だ俺が喧嘩しているのをまだ見たことがないはずだ。
もしかしたら怯えてしまうかもしれない・・・。
でもそれはやっぱりノミ蟲には関係ない。


「いやいや、それが関係あるんだなー。俺が今抱えている子は今日まさおみ君が入学して初めて作ったお友達だ。それをシズちゃんが傷付けたら泣かないわけがないよねえ?」

「てめぇがそいつを放せばいいだろうがよっ!!」

「嫌だね。泣いてる帝人君を放っておけるわけないだろ。それに帝人君はそーゆー感情を含めて俺のなんだから、放さなきゃいけない理由がない」


感情・・・俺の・・・・・・
何かどこかで聞いたことのあるようなセリフだ。
どこだったろうか?


「・・・シズちゃんって本当鈍いよね。まさか自分が感情のままに出している声が聞こえないほど鈍いとは思わなかったよ」


感情のままに出している声?
それは、どういう・・・まさか・・・いや、そんな、まさかっ!
バッとノミ蟲に向けていた視線を正臣に戻すと、俺の思ったことがわかったのか正臣は視線を合わせてひとつだけコクリと頷いた。


「いや~、でもまさか自称・年上好きのシズちゃんがショタコンだったとはね!」


自分の頭をぶん殴りたくなった。
作品名:となりの静雄さん・2 作家名:朱羽りん