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日の入りの遅い夏の空が、漸く空を橙から濃い蒼へ、そして深い紺へと変える頃、何時もなら冷房ガンガンに聞かせた部屋でビールを飲みたいなんて思うのに、今日ばかりはこの暑い野外に出てみたくなる。
 何処か遠くで、祭囃子の音が聞こえる。じわじわと迫って来るような熱気に混じって聞こえる太鼓や笛の音は、夏の空気に少しだけ涼を混ぜる気がする。

「そう言えば今日は並盛神社でお祭りだったっけ?」
 綱吉は執務机の端に置いた、カレンダーに視線を移して呟いた。
 お祭りと言えば昔、獄寺と山本と三人で行った事を思い出す。行ったと言っても、チョコバナナの屋台で店番をしていただけだったが。ついでにやっぱり何時もの様に厄介事にも巻き込まれていたが。

 屋台の事を考えていたら、そう言えばとんと食べていない焼きそばやお好み焼きの味が恋しくなった。
 ボンゴレも日本支部にいればイタリアンではなく和食が出る。綱吉が食べたいなんて言えば焼きそばもお好み焼きもすぐに出してもらえるが、綱吉が今食べたいのは、ソースの色も鮮やかな焼きそばでも、具だくさんのお好み焼きでもない。しょっぱくてべたべた油っぽい焼きそばに、ほとんど粉の塊のようなお好み焼きだ。それを屋台の間を歩きながら、お祭りの空気を吸いながら食べたいと思った。

 抜け出しちゃおうかなあ。
 ちょっと考えて、真っ直ぐ内線に手を伸ばす。
 とっても優秀で、一部では異常じゃないかと心配される程の右腕は、綱吉からの内線に何時だって二コール以内で出てくれる。今日も今日とて、コールが鳴り始めたか否かの内に、なんでしょう十代目、と明るい声が聞こえた。
「もしもし獄寺君、リボーンて今屋敷にいる?」
「リボーンさんなら、先程見かけた時は広間で銃の手入れをなさってましたけど、何か用事ですか?」
「……んーん、なんでもない。じゃあね」

 綱吉は内線の受話器を戻すのと一緒に上半身ごと机にくっつけて、深々と息を吐いた。
 なんでこんな時ばっかり屋敷にいるの。
 せっかくの祭りなんだからビアンキとでも一緒に祭りに繰り出せばいいものを。きっと先生は祭りに行きたくて抜け出そうとするであろう生徒の考えまで読んでいるに違いない。
 でなけりゃ立派な私室があるってのに、わざわざ玄関近くで出入りの激しい広間で銃なんて磨いちゃいない。

「はあ、食べたいなあ」
「何が?」
 独り言に返答があって、綱吉は慌てて顔を上げた。
 机を挟んだ向こう側には、いったい何時の間に部屋に入り込んでここまで来たのか、何時まで経っても綱吉の怖い先輩で並盛の恐怖の大魔王雲雀恭弥様が立っていた。

「こ、こんにちは……ってあれー? 浴衣ですか?」
 目の前に立つ雲雀は藍染の浴衣に、珍しく片手にはトンファーではなく、綺麗な桜の書かれた濃紺の扇子を持っていて、綱吉は首を傾げた。
 並盛の秩序であり、自分こそが世界のルールであられる雲雀恭弥が、勝手に現れようと今更綱吉は驚かない。ボンゴレの中で雲と霧の守護者の神出鬼没はもはや一般常識だ。だから突然目の前いた事に対しては何も突っ込みはしないが、浴衣を着ている事は異質であった。
 雲雀がどこまでも和を愛している事も、着物を好んで着ている事も綱吉はよく知っていたが、着物でボンゴレの基地にいる事は有り得なかった。どれだけ自分勝手な男であっても、一応公私を分けているらしく――その自覚があるのかは謎だが――雲雀が着物でいるのは、彼の屋敷の中だけの筈であった。

 綱吉の問いに、もういい年した大人の雲雀は、まるで小さな子供の様にこくりと首を上下させる。
「祭りがあるでしょ? その来賓で呼ばれてね。花火のよく見える、群れのいない席を用意したって言われたから行こうかと思って」
「へえ、いいですね」
 わざわざ席を用意してもらえる並盛の秩序様を羨ましく思いながら、綱吉は心の中で手を合わせた。
 きっと祭りの実行委員も、天下の雲雀恭弥を無視して祭りなんてする訳に行かなくて、社交辞令的に声かけただけだろう。だってまさか、雲雀恭弥が――今も風紀財団が取り仕切ってるらしい――ショバ代の取り立てでもなく祭りに顔を出すとは思わない。ご機嫌伺いくらいのつもりで席を用意しますなんて言ったはずが、本当に雲雀恭弥が来ちまうなんて、祭りの人達も気の毒だ。

 祭りの実行委員は気の毒ではあるが、それは綱吉の知ったこっちゃない。止める義理もない。己の発言が招いてしまった結果なら、甘んじて受けるべきだ。それに風紀財団長にお声かけするのなら、花火用の資産に協力した(あるファミリーから、危なっかしい火薬保管庫を押収したからそれを売り払ったら、思いの外懐が潤ったのだ)ボンゴレのボスだって招かれたっておかしくは無いじゃないか!
 本当はボンゴレのボスの元にもお声かけがあったのだが、それを彼の家庭教師が握り潰した事実を知らない綱吉は、ぷくーっと頬を膨らませる。
「お祭り行くなら、焼きそばとお好み焼き買ってきてください」
「まさかさっき食べたいって言ったのはそれかい? 嫌だよ、めんどくさい。あんな安っぽくてまずいの、買わなくたって、君はもっといいのが食べれるじゃないか?」
「何言ってるんです、あんたそれでも日本人か! お祭りには魔法のスパイスがあるんです」
「……君、頭大丈夫?」
 非常識の塊、雲雀恭弥に頭を心配されてしまった。腹立たしくて綱吉は頭を掻き毟る。
「あんたよりよっぽど大丈夫ですよ!」
「何、死ぬ?」
 発言と同時に机にトンファーが刺さる。浴衣姿で、先程までは珍しくおっかない人だと忘れてしまうほど風流であったのに、一瞬でそんな雰囲気は消え去って、殺気が漏れる。
 ある意味涼しくなっていいのかもしれないが、こんな涼の取り方は是非お断りしたい。心臓と精神が持たなくなってしまう。
 綱吉は壊れた様に首を振って、遠慮しますと呟いた。


「あんた結局、何しに来たんですか」
 机からトンファーを抜き取ってもらい、完成間近で大穴をあけられてしまった書類に涙を流しながら、綱吉は恨めしげに尋ねた。
「……そうだ。退屈だから君も祭りに連れ出そうと思って」
「群れるのはお嫌いじゃなかったですっけ?」
「退屈なのも、嫌い」
「あー、そうですか」
 雲雀の思考回路を理解しようなどと、綱吉はハナから思っていない。自分の気の向くままに動くから、考えるだけ疲れ損だ。
「御誘いは嬉しいんですけど、俺今仕事溜まってて抜け出せないんですよねー」
 終わりそうな書類もあんたに穴開けられちゃってやり直しですし。
 嫌みも込めて言ってみたが、雲雀はまったくどこ吹く風。問題ないと一つ頷く。
「いえ、雲雀さんには問題ないかもしれないんですけど、俺がリボーンに風穴開けられちゃうんですよ」
「へいき」
 平気じゃねーよ! と思わず怒鳴りそうになる綱吉の前で、雲雀が少し身体を横にずらすと、突然後ろから草壁が現れた。

「……ひっ」
 驚いて息をのみ、お祭りの金魚の様にぱくぱくと口を開ける。
 其処まで大きいわけではない雲雀の後ろから、どうして草壁が? というか、何時からいたんだ。まさか最初からか?
 状況の把握が出来ず瞬きとぱくぱくを繰り返す綱吉に、草壁は何も言わず浴衣を差し出して来た。
作品名:打開策 作家名:桃沢りく