打開策
あー、平気っていうのは俺の命じゃなくて服装の事ね? 浴衣用意したから大丈夫って事……って?
「雲雀さん雲雀さん」
「なに」
「これ、女物じゃないですか?」
草壁がずずいと差し出して来る浴衣は、白地に赤の小花が散った物で、山吹色の帯が添えられていた。無精の綱吉は祭りがあったって浴衣を着る事なんて滅多にないから、男性浴衣の柄にどんなものがあるかなど知ったこっちゃない。それでも目の前にあるのが男物ではない事はわかる。先日ハルにどの浴衣がいいかと雑誌を見せられた時に、これとよく似た物を見たからだ。
「まさか俺がこれ着るんじゃないですよね」
記憶にある物と照らし合わせる様にじっくりと浴衣を見た後、恐る恐る顔を上げると、雲雀はたいそう愉快そうな顔で微笑んで、かぽりと綱吉の頭に何かを被せた。
何だと綱吉が頭に手を伸ばすよりも早く、草壁がどこから出したのか鏡を傾けて来たから、綱吉はそれを覗き込む。
「ひえっ」
綱吉の頭には、自身の髪よりも薄い蜂蜜の様な色をした、癖のある髪のカツラのっていたのだ。
「なんで!!」
「赤ん坊にばれない為に決まってるでしょ」
「それで女装!?」
綱吉は思わず立ち上がって後ずさるが、残念ながらすぐ壁にぶつかってしまう。残念ながら後ろには窓しかない。
「草壁が着付けてくれるから心配しなくていいよ」
「着付け以前の問題だ! 祭りは行きたかったけど女装してまでじゃないです」
だから遠慮しますと綱吉が口を開く前に、雲雀は不機嫌そうに眉を寄せる。
「うるさいな。もういいよ、やって」
「へい」
「ちょっと! 待って、待ってえ」
綱吉の意見など、自分こそが秩序の雲雀恭弥と、彼に従順な部下には伝わらない。叫び声も空しく、ボスの部屋で話される重要な話が、外に漏れぬようにと施された防音設備に阻まれて、彼の部下に届く事は無かった。