【LD1】目が覚めたら【ベルジャン】
B×G
》目が覚めたら
暗闇が苦手なんだと。
それを知っているのは近しい部下とボスぐらいで、あとは他の幹部や役員たちも知らない。
俺がいつも夜遅くまで仕事をしているのは単に忙しいことと連絡調整をしていることが原因にあって、俺が夜眠りたくないからだ、という理由までは誰も知らないだろう。
もちろん、顔に出すようなヘマをしたこともない。
「んん~、なーにやってんだよベルナルドー」
「なに、ってジャン。俺はいつものようにルキーノたちの持ってくる頭の痛くなるような数字に囲まれてるんだが」
電話の王様、とジャンが言ったこの電話線だらけの仕事部屋に、ふわりと浮くような声が弾む。
いや、実際に弾んだのは俺の心だろう。ジャンがいるだけでこの部屋の空気も俺の雰囲気も、先ほどまでの殺伐とした空虚なものから、柔らかく温かみのあるものに変化する。
部下たちまで安心したように深呼吸をし、眉間の皺を伸ばして次の電話に手を伸ばしていた。
「あー…っと、ごめん、昨日のルキーノの請求書には一部俺の過失が」
「はは、そんなの数にも入らないよ。というか、お前はカポなんだぞ。そんなこと気にする必要ないさ」
目線を揺らして頭を掻いていたジャンは、けだるそうな歩き方でソファへと落ち着いた。
温くなったコーヒーを継ぎ足そうとする前に、部下が新しいコーヒーを持ってくる。恐らくはジャンがこのフロアに来た時点で用意しに行ったんだろう。
自慢したくなるような仕事ぶりだ。
「サンキュ。あ、あとさー、何か甘い物も用意してくんないかなー」
ジャンがそう言い終わる前に扉が開いてまた別の部下がお盆を手に入って来た。
俺はその様子を横目に見ながら電話に応対していて頬が緩む。ジャンの驚いた嬉しそうな顔。
「ワオ、さっすがは筆頭幹部様の精鋭部隊。先回りが上手くて的確だワ」
仕事を終えたジャンがふらりとこの部屋に立ち寄った日には、まずコーヒーを飲んでからオヤツをねだり、次に俺と軽口を言い合った後、仕事の報告をする。
この流れになることが多いから、部下たちは恐らく始めから準備をしていたんだろう。
俺が電話を置くと、ジャンが満面の笑みで俺に振り返る。
「さすがだな、あんたの部下。つか、あんたの調教?頭が冴えたヤツしか出来ないワケだ」
「ん?どういうことだ?」
「イヴァンが言ってたぜー。ベルナルドの部下は教養ってヤツがあるから怖ぇんだってよ。俺もそいつはカラっきしだからな」
部下の運んできた皿の上には、綺麗な形をしたチョコレートがいくつも並んでいた。その1つがひょいとジャンの口の中に消えていく。ああ、あの小ぶりな口の中で、赤い舌に撫でられ舐られながらその身を溶かしていくのだろう。正直、チョコレートが羨ましい。
「…やっぱり」
魅惑的な口元を見るでもなく凝視していた俺に、ジャンが不満そうな声を投げつけてきた。
意味を図りかねて目を合わせれば、「ここに来い」と言わんばかりにソファの生地を、つまりはジャンの隣を叩いている。
「はいはい、ただいまお姫様の下へ参ります」
俺が席を立ってソファに向かうと、何ともよく出来た部下たちはそろりと部屋を出て行く。
人払いをする前にこの振る舞い、よほど俺とジャンのリズムってヤツは周知の様子だ。それが嬉しくて笑みが漏れる。
「いやだ、思い出し笑い?エロい人がするって噂よ」
「あいにく俺は取り返しがつかないぐらいエロいことばっかり考えてるよ。ハニーのこと、だけをね」
「ちょっと自重した方がいいと思うわ、ダーリン」
ジャンの隣に沈み込めば、ソファの柔らかさとジャンの匂いに沈み込む。
心の底から安心できる空間に、ため息が漏れた。溜め息を吐くたびに幸せが1つ逃げるらしいが、今のはむしろ体中を巡った幸せが零れ出たようなものだ。
俺の分にと、ふんわりと湯気をたてたカップが差し出される。ご丁寧にミルクも混入されていた。
「…ジャン、何かあったのか?」
部屋に入って来たときから、ところどころ会話の噛み合ってないところがあった。
何か言いたそうな様子だ。俺がブラックコーヒーを好むのを知っていてコレを出す、ということはどうやら俺に非があるようだが…。
ジャンは自分のコーヒーをテーブルに置くと、勢いをつけて座りなおす。
そして振り返り、笑顔で。
「あいたっ」
ジャンの細いひとさし指が見事なデコピンを食らわせた。
それほどの衝撃ではないが地味に痛い。だいたい理由がわからない。
「ジャン、何を」
「何を、はこっちのセリフだっての」
せっかく注いでくれたカップを取り上げられる。温もりが指先から離され、その名残を追いかける前に視界がぶれた。
ジャンに眼鏡まで一緒に取り上げられたのだ。
それらはテーブルに音も立てないよう優しく置かれると、今度は体全体がぶれる。
強引に突っ張られて行き着いた先は、ジャンの膝の上だった。
》目が覚めたら
暗闇が苦手なんだと。
それを知っているのは近しい部下とボスぐらいで、あとは他の幹部や役員たちも知らない。
俺がいつも夜遅くまで仕事をしているのは単に忙しいことと連絡調整をしていることが原因にあって、俺が夜眠りたくないからだ、という理由までは誰も知らないだろう。
もちろん、顔に出すようなヘマをしたこともない。
「んん~、なーにやってんだよベルナルドー」
「なに、ってジャン。俺はいつものようにルキーノたちの持ってくる頭の痛くなるような数字に囲まれてるんだが」
電話の王様、とジャンが言ったこの電話線だらけの仕事部屋に、ふわりと浮くような声が弾む。
いや、実際に弾んだのは俺の心だろう。ジャンがいるだけでこの部屋の空気も俺の雰囲気も、先ほどまでの殺伐とした空虚なものから、柔らかく温かみのあるものに変化する。
部下たちまで安心したように深呼吸をし、眉間の皺を伸ばして次の電話に手を伸ばしていた。
「あー…っと、ごめん、昨日のルキーノの請求書には一部俺の過失が」
「はは、そんなの数にも入らないよ。というか、お前はカポなんだぞ。そんなこと気にする必要ないさ」
目線を揺らして頭を掻いていたジャンは、けだるそうな歩き方でソファへと落ち着いた。
温くなったコーヒーを継ぎ足そうとする前に、部下が新しいコーヒーを持ってくる。恐らくはジャンがこのフロアに来た時点で用意しに行ったんだろう。
自慢したくなるような仕事ぶりだ。
「サンキュ。あ、あとさー、何か甘い物も用意してくんないかなー」
ジャンがそう言い終わる前に扉が開いてまた別の部下がお盆を手に入って来た。
俺はその様子を横目に見ながら電話に応対していて頬が緩む。ジャンの驚いた嬉しそうな顔。
「ワオ、さっすがは筆頭幹部様の精鋭部隊。先回りが上手くて的確だワ」
仕事を終えたジャンがふらりとこの部屋に立ち寄った日には、まずコーヒーを飲んでからオヤツをねだり、次に俺と軽口を言い合った後、仕事の報告をする。
この流れになることが多いから、部下たちは恐らく始めから準備をしていたんだろう。
俺が電話を置くと、ジャンが満面の笑みで俺に振り返る。
「さすがだな、あんたの部下。つか、あんたの調教?頭が冴えたヤツしか出来ないワケだ」
「ん?どういうことだ?」
「イヴァンが言ってたぜー。ベルナルドの部下は教養ってヤツがあるから怖ぇんだってよ。俺もそいつはカラっきしだからな」
部下の運んできた皿の上には、綺麗な形をしたチョコレートがいくつも並んでいた。その1つがひょいとジャンの口の中に消えていく。ああ、あの小ぶりな口の中で、赤い舌に撫でられ舐られながらその身を溶かしていくのだろう。正直、チョコレートが羨ましい。
「…やっぱり」
魅惑的な口元を見るでもなく凝視していた俺に、ジャンが不満そうな声を投げつけてきた。
意味を図りかねて目を合わせれば、「ここに来い」と言わんばかりにソファの生地を、つまりはジャンの隣を叩いている。
「はいはい、ただいまお姫様の下へ参ります」
俺が席を立ってソファに向かうと、何ともよく出来た部下たちはそろりと部屋を出て行く。
人払いをする前にこの振る舞い、よほど俺とジャンのリズムってヤツは周知の様子だ。それが嬉しくて笑みが漏れる。
「いやだ、思い出し笑い?エロい人がするって噂よ」
「あいにく俺は取り返しがつかないぐらいエロいことばっかり考えてるよ。ハニーのこと、だけをね」
「ちょっと自重した方がいいと思うわ、ダーリン」
ジャンの隣に沈み込めば、ソファの柔らかさとジャンの匂いに沈み込む。
心の底から安心できる空間に、ため息が漏れた。溜め息を吐くたびに幸せが1つ逃げるらしいが、今のはむしろ体中を巡った幸せが零れ出たようなものだ。
俺の分にと、ふんわりと湯気をたてたカップが差し出される。ご丁寧にミルクも混入されていた。
「…ジャン、何かあったのか?」
部屋に入って来たときから、ところどころ会話の噛み合ってないところがあった。
何か言いたそうな様子だ。俺がブラックコーヒーを好むのを知っていてコレを出す、ということはどうやら俺に非があるようだが…。
ジャンは自分のコーヒーをテーブルに置くと、勢いをつけて座りなおす。
そして振り返り、笑顔で。
「あいたっ」
ジャンの細いひとさし指が見事なデコピンを食らわせた。
それほどの衝撃ではないが地味に痛い。だいたい理由がわからない。
「ジャン、何を」
「何を、はこっちのセリフだっての」
せっかく注いでくれたカップを取り上げられる。温もりが指先から離され、その名残を追いかける前に視界がぶれた。
ジャンに眼鏡まで一緒に取り上げられたのだ。
それらはテーブルに音も立てないよう優しく置かれると、今度は体全体がぶれる。
強引に突っ張られて行き着いた先は、ジャンの膝の上だった。
作品名:【LD1】目が覚めたら【ベルジャン】 作家名:cou@ついった