【LD1】幸運の使い道【ベルジャン】
B×G
》俺の弟分に
大切なモノはそれほど多く持ってはいなかった。
この街、このファミリー、そのボス。掛け替えのないものはこんなところだ。
あとは幾人かの自分の部下と、数年前から付き合ってる女がいた。
「ベルナルド、お前幹部候補なんだってな」
「あんたは頭が回るからなー、俺だってあんたみたく勉強が出来りゃなれるかもしんねーのに」
笑いながら「大勢の候補の1人」だと返事してCR:5の構成員の溜まり場と化していたボロ臭い店を出た。正直、幹部になれるのはもうすぐだと思うが、あまり振れ回ることでもない。
デイバンの街の裏路地、埃が舞っているような灰色の空の下で未来なんてものを想像してみてもあまり展望は見えなかった。そんなものより、経済紙を読んでいる方がよほど明日が見える。
活版印刷でしかない未来しか描けない自分に、自分でも少し馬鹿らしくなる。
デイバンのために、CR:5のためになることを出来る、と思ってはいてもあまり気分が晴れる気はしなかった。
ソコに俺自身の幸せというヤツは転がっているんだろうか。
何を青いことを。そう思い煙草を咥えたところで、聞き慣れた声がした。
「チャーオ!ベルナルド」
振り返れば少年が手を振りながら近づいてくる。
何度か幹部カヴァッリの傍にいるのを見た、ジャンカルロというまだ幼さまで残している少年だった。
「よう、ジャン。今日はドン・カヴァッリについてなくていいのか?」
「や、今俺、その名前ききたくねー!昨日遅くまで連れまわされてたんだぜ?俺はどこにでも合う鍵かっつーの」
どうやら開錠を任されてあちこち回っていたらしい。ジャンの鍵開けの速さはなかなかのものだ。
「さすが幹部方々のお気に入りだな」
「んなイイもんじゃねーよ。俺は爺様にとっちゃ便利な鍵のついてるカバンぐらいのモンだ」
「カバン持ちを任せるのは、信頼の証だと言うだろう」
「たんに盗んで悪用するだけの脳ミソも足りてないと思ってるだけかもよ?」
ジャンとは以前ボスから直接頼まれたある仕事で初めて会ってから、何度か顔を合わせている。俺よりも年下でその鎖骨の部分に覗くCR:5のタトゥーさえまだ赤さが残るような構成員だ。
それでもその気兼ねしない人懐っこさとふとした瞬間に回る機転に、安堵できるような気安さを感じることが出来て助かる。
「ところでさ、ベルナルド。俺実は今、めちゃくちゃ宝くじ買ってみたい気分なんだけど、元手がさっぱりなワケ」
「ははぁ、それで俺のトコに来たのか」
「絶対、倍で返せる気がするからさ、俺の運、買ってみねえ?」
コレがジャンを、ただの準々構成員からボスや幹部たちからのお気に入りにさせる最大要因だと思う。一部でまことしやかに囁かれる、噂。
絶対的な幸運を持つ少年。
「しょーがないな。俺を選んで金を借りに来たことへの感謝を込めて」
「やった!なんか今ならイケそうな気がすんだよな!サンキュー、ベルナルド。あんたも一緒に行こーぜ」
俺の腕を掴むと、まるで急がなければ幸運が逃げるとでも言うようにジャンは早足で歩き始めた。
彼が頼りに来たのが自分、というのは存外嬉しい気分になる。
一家惨殺事件での唯一の生き残り。
孤児院育ちで不良から順当にマフィアへと足を踏み込んできた少年。
デイバンでは珍しいというほどでもないが、その時々で“幸運にも”という言葉がついてくる人生を送ってきているそうだ。人から聞いたものも、本人から直接聞いたものもある。
人に自慢出来る話でもない気がするが、ただ澄んだ眼をしたまま、真っ直ぐに自分の進んでいく姿に俺は、少し興味が湧いていた。
》俺の弟分に
大切なモノはそれほど多く持ってはいなかった。
この街、このファミリー、そのボス。掛け替えのないものはこんなところだ。
あとは幾人かの自分の部下と、数年前から付き合ってる女がいた。
「ベルナルド、お前幹部候補なんだってな」
「あんたは頭が回るからなー、俺だってあんたみたく勉強が出来りゃなれるかもしんねーのに」
笑いながら「大勢の候補の1人」だと返事してCR:5の構成員の溜まり場と化していたボロ臭い店を出た。正直、幹部になれるのはもうすぐだと思うが、あまり振れ回ることでもない。
デイバンの街の裏路地、埃が舞っているような灰色の空の下で未来なんてものを想像してみてもあまり展望は見えなかった。そんなものより、経済紙を読んでいる方がよほど明日が見える。
活版印刷でしかない未来しか描けない自分に、自分でも少し馬鹿らしくなる。
デイバンのために、CR:5のためになることを出来る、と思ってはいてもあまり気分が晴れる気はしなかった。
ソコに俺自身の幸せというヤツは転がっているんだろうか。
何を青いことを。そう思い煙草を咥えたところで、聞き慣れた声がした。
「チャーオ!ベルナルド」
振り返れば少年が手を振りながら近づいてくる。
何度か幹部カヴァッリの傍にいるのを見た、ジャンカルロというまだ幼さまで残している少年だった。
「よう、ジャン。今日はドン・カヴァッリについてなくていいのか?」
「や、今俺、その名前ききたくねー!昨日遅くまで連れまわされてたんだぜ?俺はどこにでも合う鍵かっつーの」
どうやら開錠を任されてあちこち回っていたらしい。ジャンの鍵開けの速さはなかなかのものだ。
「さすが幹部方々のお気に入りだな」
「んなイイもんじゃねーよ。俺は爺様にとっちゃ便利な鍵のついてるカバンぐらいのモンだ」
「カバン持ちを任せるのは、信頼の証だと言うだろう」
「たんに盗んで悪用するだけの脳ミソも足りてないと思ってるだけかもよ?」
ジャンとは以前ボスから直接頼まれたある仕事で初めて会ってから、何度か顔を合わせている。俺よりも年下でその鎖骨の部分に覗くCR:5のタトゥーさえまだ赤さが残るような構成員だ。
それでもその気兼ねしない人懐っこさとふとした瞬間に回る機転に、安堵できるような気安さを感じることが出来て助かる。
「ところでさ、ベルナルド。俺実は今、めちゃくちゃ宝くじ買ってみたい気分なんだけど、元手がさっぱりなワケ」
「ははぁ、それで俺のトコに来たのか」
「絶対、倍で返せる気がするからさ、俺の運、買ってみねえ?」
コレがジャンを、ただの準々構成員からボスや幹部たちからのお気に入りにさせる最大要因だと思う。一部でまことしやかに囁かれる、噂。
絶対的な幸運を持つ少年。
「しょーがないな。俺を選んで金を借りに来たことへの感謝を込めて」
「やった!なんか今ならイケそうな気がすんだよな!サンキュー、ベルナルド。あんたも一緒に行こーぜ」
俺の腕を掴むと、まるで急がなければ幸運が逃げるとでも言うようにジャンは早足で歩き始めた。
彼が頼りに来たのが自分、というのは存外嬉しい気分になる。
一家惨殺事件での唯一の生き残り。
孤児院育ちで不良から順当にマフィアへと足を踏み込んできた少年。
デイバンでは珍しいというほどでもないが、その時々で“幸運にも”という言葉がついてくる人生を送ってきているそうだ。人から聞いたものも、本人から直接聞いたものもある。
人に自慢出来る話でもない気がするが、ただ澄んだ眼をしたまま、真っ直ぐに自分の進んでいく姿に俺は、少し興味が湧いていた。
作品名:【LD1】幸運の使い道【ベルジャン】 作家名:cou@ついった