【LD1】幸運の使い道【ベルジャン】
「でもさ、運ってのは何に良い運なのかってのが分かり難いと、俺は思うんだよなー」
「それはまた、幸運によく恵まれるから言える台詞だな」
「そーなのー。だからさ、とりあえず人に会ってみんのよ、俺は」
「うん?どういうことだ?」
ジャンはフラリと俺の前を横切るように歩きながら、ヒラヒラと宝くじの券を振った。当たった金でまた買ったらしい。
「今、俺の運と相性がいいヤツはどいつだろーな、ってさ」
ヒラヒラと振られた券は俺の前に突き出される。その向こうに自信のある強い視線が透けて見えた。
「今回は俺、あんたに会いたかった。そんでもって、金を受け取りに行ったらまたあんたに会いたくなった。だから、これはあんたに」
もう1枚の券をポケットから取り出し、それに唇を寄せてキスをしながらウインクしてみせる。あからさまなお誘いの仕草。
無邪気な自信と、その幸運を出し惜しむことなく俺にもくれるという純粋な遊び心。
だがその瞳の奥には、極上の艶めいた輝きが、言葉にされることのない計算高さと思慮深さを秘めて覗いている。
「貰っておくよ。…けど」
目の前に差し出された券をそのまだ白くて柔らかそうな指先から引き抜くと、真似をするように口付けた。
「これ、交換してくれ」
「は?あんたがチュウしたのと、交換すんのけ?」
「そうだよ。ジャンがチュウしたのと交換して欲しい。その方がご利益がある気がするからな」
わけわかんねー、などと悪態をつきながらも、こぼれるような笑顔で宝くじを突き出した。
再びその指先から券を引き抜き、代わりにさっき貰った方を返す。
「言っとくけど、こっちのが当たりそうなんだわ」
「うん?当たりそうな方を俺にくれてたのか」
「だって何か、次期幹部候補だってのにあんた、幸薄そうな顔してんだもん。心配ごとが山ほどあるけど、全部自分で何とか出来ます、ってカンジだぜ、ベルナルド」
そんなことを、言われたのは初めてだった。確かに1人で仕事を抱え込み易いとよく指摘を受けたが、自分でやった方が確実だし、安心だからと気にしていなかった。
幸薄そう…、とは。
「これはまた手酷い言い様だな」
つい笑ってしまう。ジャンはよく人を見ている。この観察眼が彼の武器とも言えるんだろう。
「だからさー、さっきの話、あんたにもツイてる日が来たらさ、とりあえず人に会ってみれば?」
「誰に会えばいいのかな」
「俺に聞くなって。誰でもイイんだよ、そのとき思いついた会いたい人でさ」
そもそも運のツイてる日がいつなのか、俺には分からないだろうと思う。ラッキーだ、と思うことはあってもそれはだいたい全てが終わってから、思い返してみてそう感じるから。
「あんたが会いたい人が、あんたのその山ほどある心配ごとを切り崩して、あんたを幸多そうな顔にしてくれるって、たぶん」
そう言った後、閃いたようにジャンが声を上げて笑った。
「そうだよ、あんたの運の使い道、それがイイんじゃね?」
「俺の、運の使い道?」
「そ、運よくあんたの苦労や心配事を肩代わりしてくれる相棒に会えるように」
俺みたいに即物的なものじゃなくて、とジャンがもう1度宝くじの券に口付ける。
頭の隅で間接キスだな、なんて馬鹿なことを考えながら、その素晴らしい提案に胸がほっと温かくなった。そうか。運のよさは人との出会いにも通用するのか。
俺が会いたくなる人…。
浮かんできた顔は、部下でも、女でも、ボスでもなく…。
「…ということは、俺は今日がツイてる日だったかもしれないな」
チャオ、と手を振ってデイバンの街に消えていった細い背中のブロンド姿を見送った後に、その小さくなっていく影に向けて呟いた。
俺も今日、ジャンに会いたかったから。
そんなことを面と向かって言ったなら、ジャンはどんな顔をするだろうか。子犬が跳ね回るようにコロコロとよく変わる愛嬌たっぷりの表情で。
俺はまだ、ジャンがどんな返答を返してくるか想像がつかなかった。さすがにあれほどの観察眼は持ち合わせてはいないようだ。だから。
もっとジャンに会いたい。
「ボス。1つお願いがあるのですが」
ジャンを俺の弟分に。
俺がツイてる日に出会ってそれを教えてくれた、大切な彼を、俺の傍に。
作品名:【LD1】幸運の使い道【ベルジャン】 作家名:cou@ついった