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リハビリ

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 頭をわしわし掻き回したあと、その手は襟足をなめらかに移動し今はうなじの辺りを意味もなく撫でている。水谷の手はなぜかいつも暖かい。僕が反応を返さずにいると肩に水谷のあごが乗る、腕が回る、顔が近い。これではおちおちノートも写せない。
「……みずたに」
「あーい?」
「邪魔だよ」
 少し邪険にそう言ったら水谷はなにかぶつぶつ言いながらふらふらと巣山の方に歩いていった。
 どうした水谷ー? 栄口に邪魔だって言われた〜
 借りたノートの文字を黙々と書き写す頭の中に二人のやり取りが流れる。
 ちらりと横を見遣ると、さっきまで僕にしていたように巣山の後ろの机に座り、さわさわとその坊主頭を触っている。

 つまり水谷はそういう奴なのだった。
 早々に「うざい」と切り捨てた阿部にも少し困った顔をする花井にも臆することなく絡んでいく。田島や泉とは肩を組んで何かコソコソ話し大げさに笑い合っている。水谷はたいした理由もなく誰かに抱きつくとか、やたら肌をくっつけてくる類のスキンシップが好きな奴だった。僕にはできない芸当だ、と思う。
 僕はその変な癖にあまり関わりたくなかった。別に水谷のことが嫌いというわけではないし、阿部のように「うざい」とも感じず、けれど、あの手の与えてくる感触に少し臆病になることが時々あった。僕はそういった態度をあまり表に出さないので水谷はかまわずに僕に触れてくる。そういう時の頭の中は本当に混沌としている。どうしてかは自分でもよく分からない。
作品名:リハビリ 作家名:さはら