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リハビリ

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 それから水谷は僕を避けるようになった。
 当然だ、あんなカミングアウトをしてしまったのだから。1組には滅多に来なくなったし、たまたま話すことはあっても前のように馴れ馴れしく触ってくることはなくなった。そんなふうに変わってしまった僕と水谷の関係を気づく者はいなかった。皆が知らない間に始まり、知らない間に終わってしまった。
(今日もいない)
 真っ暗な部室の中、当たり前のことを思う。
 手早く戸締りを確認しドアの鍵を閉めたら、すべてに終止符が打たれてしまったような感じがした。


 片付けを終えた僕が部室の近くまで行くと、もう着替え終わった阿部とすれ違った。
「あれ?阿部今日鍵当番じゃないっけ?」
「俺ちょっと用事あるから水谷に代わってもらった」
 パン1個で。そう付け加えると阿部は急ぎ足で去っていった。
 一人、また一人と帰る支度を済ませた部員たちが部室を後にしていく。
 僕はボタンひとつかけるのにいつもの倍の時間を費やす。ズボンを履き替えるころには、最後のメンバーに「お疲れ」と声をかけられるくらい時が流れていた。
 水谷はいない。たぶん今頃鍵を取りに校舎まで行っているのだろう。
 あいつは僕を待っているときどういう気持ちだったのかな。あいつはどうして僕に触れたがったのかな。
 蛍光灯がくだらないことを考える僕の頭を照らし、床に影を作る。
 もう後悔はしたくなかった。

 突然開かれたドアのむこう、水谷は最後に見せたあの具合の悪そうな顔でまた僕を見る。
 その表情に心の中で苦笑いをして感情のまま抱きついたら、何かを堪えるような声が水谷から漏れた。どういう表情をしているかは伺えないけれど、前していたように背中へと手を回してこない。どうしてためらっているのかな。
 肩をつかまれ身体から引き離される。水谷は泣きそうになりながらしばらく僕を見つめたあと、目を開いたまま何かを確かめるかのようにキスをしてきた。
 そしたらまた世界が始まるような気がした。
作品名:リハビリ 作家名:さはら