池袋おいかけっこ
「ほぅら、これが俺の味だよシズちゃん、……さっきあんなに乱暴な事するからさ、ほら、爪の横から血が出ちゃった」
「……ッぅ!」
「美味しい? 美味しいよね、だってシズちゃん俺が好きだから」
引き抜いた指に絡まる唾液がツと糸をひき、それが夜の街を包む光に反射した。
ついでにナイフを抜けば噎せる姿がまた面白くて、臨也は無意識に綺麗になったその指を自分でも舐める。
静雄が五感の三つをここまで臨也に染めた理由なんて簡単だ、よく考えてみて欲しい、二人は初めて会った時から今までを、殺し合う術の交わり以外で互いに互いで触れた事がないのだ。
距離は数メートル、それが二人の一番たる接触。
だからこそ静雄は臨也をかぎつける事に長けており、相手がどんな体温を持つかすら知らないのだ。
──人は快楽を覚えてこそ貪欲になるって言うけれど。
だとしたらそれはどうなのか、欲望に準ずる快楽の先には面白くも愉快な甘い触れ合いが待つと言うけれど、到底それを妄想する程暇も無く。
その時蹂躙された味覚と触覚は互いを熱に燻らせたスパイスだ。
静雄は臨也を覚え、果てに臨也は静雄たるものの存在にまた強くも結ばれていく。
「……おっかしいな、トイレに行きたくなっちゃったよ」
臨也は背を痺れさせた興奮を前にそう呟いて、静雄の唾液が絡んだ指を強かに吸い上げた。