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日坂短編集

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坂上君が語る飴玉ばあさん


六人目の話が終わった。だけど、一向に七人目が訪れる気配は無い。
 語り終わった語り部の人達は黙り込み、判断を問うように私を見つめている。
 相変わらず部室の空気はどこか淀んでいて、ただでさえ不快な蒸し暑さが、時が経つごとにいやますようだ。
 時計の秒針の音がやけに耳障りだった。見上げて時刻を確認すると、そろそろ帰宅した方がいいような気がしてきた。
 
「どうするの倉田さん。このまま七人目を待つのかしら」
 しびれをきらしたように、とはいえあくまでも冷静に、岩下さんが口を開く。
「うわぁ。外、超暗くない?私はそろそろ帰りたいなぁ」
 福沢さんがつられたように文句を言った。他の人達からも、やや苛立っているような雰囲気が伝わってきた。
 どうしようか。諦めた方がいいのかも知れない。そう思いかけた時だった。突然、部室の扉が開いた。
「こんばんは、皆さん」
「さ、坂上君!」
 新聞部員だった。同じ一年生の坂上修一君。
「どうして坂上君がここに?」
「やあ倉田さん。実は、ここに来る筈だった語り部の方のひとりが都合で来られなくなってしまったみたいで、日野先輩に僕が代わりに話をするように頼まれて来たんだ」
「そうなの?」
 私は不思議に思った。だって、坂上君は「怖い話は苦手だから」と言って、聞き役を辞退していたのだから。そんな坂上君が、怖い話なんてできるの?
「では皆さん、よろしくお願いします。すぐ終わりますので、もう少しお付き合い下さいね」
 私の心配を余所に、坂上君は他の人たちに頭を下げると、七人目が座る筈だった椅子に腰を下ろした。
 
 
 
 
 
「では、改めて自己紹介させていただきますね。僕は、坂上修一といいます。新聞部の一年生です。
僕がお話させていただくのは、恋に狂ってしまったある男子生徒の話です。
その人は、そうですね、仮にH先輩といいます。
え?違いますよ風間さん。エッチな先輩じゃありません。苗字のイニシャルがHなんですよ。
……いいですから、真面目に聞いてください。
 
H先輩は、僕や倉田さんがとてもお世話になっている方なので、実名は明かさないことにします。ご本人のご厚意で、今日この場で話すことを許していただいたんです。ですから、彼の名前については、これ以上聞かないでくださいね。
 
H先輩は、最近好きな人ができたんです。相手は同じ部活の後輩でしたが、はじめは興味がなかったそうです。けれども、頻繁に会話して指導を重ねるうちに、段々好きになっていきました。
え?普通の恋話が聞きたいわけじゃない?
まあ落ち着いてください。話はこれからなんですから。
 
H先輩は容姿もそこそこで、しかも頭がよかったので、かなりモテるんだそうです。ご本人の話ですから、本当のところはわかりませんけど。もちろん、僕から見てもとてもいい先輩で、尊敬していますよ。
ですから、相手が普通の女の子でしたら、H先輩に「付き合ってくれ」なんて言われたら、喜んで彼女になるでしょうね。
でも、H先輩が好きになった子は、違いました。
……男子だったんですよ。
彼はS君というんですが、Hさんいわく、小柄で、そこらの女子よりも可愛く見えたそうです。僕は、H先輩がいうほど小さくは無いと思いますけどね。
 
H先輩は悩みました。当然ですよね、男同士ですから。まず、普通は叶わない恋でしょう。
でも、H先輩は、「自分はホモだったのか」って、まずそこから悩んだんだそうです。自分の気持ちを認められなかったんですね。
実はH先輩は失恋したばかりでした。相手の方が死んでしまったんです。片想いでした。その人も男だったんですよ。同級生だったみたいです。確か、K先輩だったと思います。
彼には彼女がいたそうです。I先輩というとても綺麗な方でした。H先輩はそれでも諦めきれなくて、ずっと友人として傍にいました。
でも、今はさすがに未練は無いみたいですよ。だって、相手が死んでしまったんですから。
……福沢さん?顔色が悪いですよ。大丈夫ですか?
 
H先輩は、自分はホモなんじゃなくて、K先輩が好きなだけなんだと思っていたんです。だから、次に好きになったのも男なんて、ショックだったんでしょうね。
でもH先輩はすぐに開き直りました。
 
それで、S君ですけど、彼に恋人はいませんでした。過去にいたこともないだろうとH先輩は思っていました。実際、そうだったんです。
H先輩は、S君なら、K先輩よりはまだのぞみがあるんじゃないかって考えたみたいです。やたらS君の面倒をみて、気をひこうとしていました。はたからみると過保護なくらいの親切ぶりでしたけど、S君は純粋に感謝していたんです。H先輩を尊敬して、自分も彼のようになりたいと憧れたんですね。
H先輩は猛アピールしましたが、S君はH先輩の気持ちなんて全然気付きませんでした。
 
よく、「恋は盲目」って言いますよね。恋をすると、周りが見えなくなる。だけどあの言葉は、恋をすると自分の恋心にばかりとらわれて、相手の気持ちが見えなくなることも示しているんでしょうね。
S君も、恋をしていたんですよ。
 
ある日H先輩は、部活の後輩が噂しているのを聞きました。S君が、同じ部活のKさんに想いを寄せてるっていうんです。誰が始めたのか知りませんけど、本人に確かめもしないで、勝手なものですよね。でも、H先輩はそれを鵜呑みにしてしまいました。
 Kさんは、S君と同じ一年生で、ちょっとおとなしいタイプの、でも芯はしっかりしてる、可愛い人なんです。モテてたと思います。
でも彼女が好きなのは、S君じゃなくて、H先輩でした。少なくとも、H先輩はそう思いこんでいました。
 
 
ところで皆さんは、「飴玉ばあさん」の話をご存知ですか?生徒通用門の前に立っている魔法使いみたいなおばあさんが、気に入った子やひとりぼっちの寂しい子に声をかけて、魔法の飴をひとつぶあげていたって話です。
五、六年前の話だっていいますけど、本当はそのおばあさん、今でもいるんですよ。昔は平日に誰でも見かけていたみたいだけど、最近は日曜日の黄昏時に、よく現れるんだそうです。日曜日の黄昏時ならいつでも誰でもってわけじゃないんです。今は、飴玉ばあさんに会うにも資格が要るんですよ。
 
 
H先輩は、その飴玉ばあさんに遭遇したんです。日曜日に部活に出て、記事をまとめるために最後まで残った帰りでした。休日の部活は早い時間に終わるので、それでも外はまだだいぶ明るかったそうです。
やっぱり黄昏時でしたから、H先輩はかなり近づくまで飴玉ばあさんの存在に気付きませんでした。気付いてしまえば、彼は飴玉ばあさんの噂を先輩から聞いたことがありましたから、すぐにその正体がわかりました。
H先輩は無視して素通りしようとしました。飴玉ばあさんに関わったってろくなことはないと思ったんです。それで済めばよかったんですけど、飴玉ばあさんはH先輩を呼び止めて、赤い飴玉を取り出しました。
作品名:日坂短編集 作家名:_ 消