日坂短編集
僕は自由になった腕を、愛しい人の背中に回した。
彼はそれを受け止めると、僕の額に冷たい唇を寄せて、熱く甘い吐息を漏らす。
その手は僕の首に掛かり、ゆっくりと力を加えていく。
苦しい息の下で僕は歓喜に打ち震え、溢れ出した涙が先輩の指を濡らす。
締め付けは急に緩まり、解放された僕は先輩の胸に顔を押し付けるようにして咳込んだ。
「坂上……」
かすれた声が耳元で囁き、唇が耳朶を食む。
「ここまでしないと、安心できなかったんですか?」
ほんの少しの呆れとそれに倍する愛しさが胸を満たす。
「ああ」
──世界は、完成しつつあった。