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双子時々ドッペルゲンゲル、処により一時兄

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私は私、あなたはあなた。誰一人として、此の世に同じ人などいない。誰しもが個性を持っていて、得意不得意があり、皆其れを不安に思ったり、得意に思ったり。世界にはあらゆる思惑がひしめき合っている。
其の一つが、同一化である、とイザ兄が云っていた。特に此処、私たちが暮らす日本という国の国民は、此の同一化を好むらしい。均質化された社会、「みんな一緒に」、其れが日本人なのだと、少し前に、イザ兄は教えてくれた。
だからなのかも知れない。周りは常に、私とクル姉を同じにしたがる。
私とクル姉は双子。同じ日に生まれて同じ顔をして、同じ遺伝子を持っている。けれど、私は私、クル姉はクル姉。同じじゃない。其れなのに、皆私たちを同じにしたがる。
お父さんもお母さんも、学校の先生も、私に向かって眉を顰めて斯う云うのだ。
――如何して、九瑠璃のようにしていられないの?

私はイザ兄によく似ている、と云われる。イザ兄を知っている人は、よくそう云う。反対に、クル姉はイザ兄と似てるとは云われない。
イザ兄は口が達者で、よく人の上げ足を取るのだと、学校の先生が云っていた。頭の回転が速く、末恐ろしいくらいだ、とも云っていた。だから、外の人は皆、私とイザ兄はよく喋るところが似ていると云い、クル姉は二人に比べて随分大人しいと云われている。
確かにイザ兄はよく喋る。でも、家では喋らない。外ではよく喋るのに、お父さんとお母さんの前では殆ど喋らないのだ。別に、お父さんとお母さんが嫌いなわけじゃないらしい。ただ、話すべきことが無いのだと、イザ兄は云っていた。
だから、お父さんもお母さんもイザ兄が本当はお喋りなのを知らない。イザ兄に似ているのはクル姉で、異端なのは私だと、お父さんもお母さんも思っていた。
だから、何時もお喋りで活発な私が怒られた。
「如何して静かにしていられないのかしら」
お母さんはそう云った。
「もう少し、大人しくしようね? 女の子なんだから」
お父さんがそう云った。
「マイル、俺はうるさい子は嫌いだよ」
イザ兄までそう云った。
私は「お喋りで落ち着きのない子」、クル姉は「物静かで大人しい子」。其れが皆の認識だと、或る時気が付いた。
「双子なのに如何して……」
比較をオブラートに包んだ、無害を装う其の言葉は、私の精神を何時も密やかに傷付ける。皆は何時も私とクル姉を比べていた。

何時だったか、お母さんが出かけている間に、イザ兄が花瓶を割ったことがある。
何があったのか知らないけれど、突然学校から帰って来たかと思うとイザ兄はテーブルを蹴り倒したのだ。テーブルの上には、私とクル姉がおやつを食べた後のゴミと、飲みかけのジュースのはいったコップ、其れとお母さんのお気に入りの花瓶があり、イザ兄がテーブルを蹴り倒したものだから、其れらは宙を舞って床に落ち、けたたましく喚き散らした。
リビングで遊んでいた私とクル姉は、其の音に吃驚してただ呆然とし、床はジュースとお菓子の屑、そして割れた花瓶の破片でぐちゃぐちゃになった。
「あームカつく。……あ。其れ片付けといて」
そう云うと、イザ兄は自分の部屋に入って行ってしまう。仕方なく、私とクル姉は床の大惨事を処理するべく、遊びを中断した。
お菓子の屑も、零れたジュースも、ふき取れば何事もなかったかのように床は綺麗になった。ひっくり返ったテーブルを元に戻し、お皿とコップを乗せれば其れは元の儘。コップとお皿がプラスチックでよかったと其の時は心の底から思った。ただ、花瓶だけは如何にもならなかった。
綺麗に破片を集めたけれど、もう壊れてしまったものは元に戻せない。お花は無事だったけれど、さっきまで綺麗に咲いていられた場所を取り戻してやれないことが、酷く哀しかった。
暫くして、お母さんが帰って来た。そうして机の上に置かれた花と花瓶の破片を見て、酷く憤慨した。
「誰が割ったの?」
お母さんは強い口調でそう云った。すると、イザ兄が部屋から出てくる。
「如何したの?」
イザ兄は何食わぬ顔でそう云うと、ちらりと花瓶の破片に目をやり、あろうことか、「こりゃ酷い」と口にした。まるで、今初めて見ました、と云うような態度に、私もクル姉も思わずイザ兄の顔を見た。
するとイザ兄は、私たちだけにしか分からないように、小さく嗤って見せる。お母さんが誰がやったの? とまた繰り返した。
「俺は知らないよ、ずっと部屋にいたから」
イザ兄はそう云うと、さり気無く私たちの後ろに立つ。
其の言葉に納得したのか、お母さんの怒りは私たちに向けられた。お母さんは花瓶の破片の一つを指でなぞりながら、「此れは大事なものだったのよ」とヒステリックな声を上げ、其れからきっと私を睨んだ。
「マイル、如何せあなたがやったんでしょう?」
其の言葉に、私は頭が真っ白になった。確かに、家でも外でも一番活発なのは私だ。けれど、其れだけの理由でお母さんに決め付けられるとは思っていなかった。イザ兄が責任逃れをしただけでも、私には充分衝撃的だったのに、其れを上回る衝撃を受けて、私は何も云えなかった。
「……母、……違(お母さん、違うよ)」
そう云いかけて、クル姉はびくりと身体を震わせた。如何したんだろうと思って、横目でちらりとクル姉を見て、私はぎくりとした。
クル姉の首をイザ兄が後ろから掴んでいたからだ。イザ兄はまた私たちだけに分かるようにして、今度は「お前ら余計なこと云うなよ?」と囁いて薄く嗤った。
小学生の私たちが、年の離れたイザ兄に敵う筈もなく、私とクル姉は圧倒的な力の前にただ黙るしかなく、結局私がお母さんに酷く怒られた。やっぱり、「如何して臨也とクルリは大人しいのにっ……」とお母さんは呆れたように云った。

……ごめんね? お母さんに怒られて部屋に返ると、謝る必要もないのにクル姉がそう云って泣きそうな顔をした。きっと私はこんな顔をしているのだろう。クル姉の顔を見て、私はそう思った。急に安心したのか、眼から涙が零れた。クル姉も泣き始めてしまった。私たちはお互いの身体を抱きしめるようにして抱き合うと、声も出さずに泣いた。
怖かったのだ。
まさかイザ兄があんなことをするとは思っていなかった。まさか、お母さんがイザ兄を疑いもせずに、イザ兄の嘘を信じると思っていなかった。そうして、まさか私の所為だと決め付けると思わなかった。此れから、一体誰を信じていったらいいのか分からず、私たちは怖くなったのだ。
そうやって泣いていると、不意に部屋のドアが開いて、イザ兄が入ってきた。
「……なんだ、泣いてんの? さっきは如何もね」
そう云うと、イザ兄は私の机に腰掛けて教科書をつまらなそうにぺらりと捲る。
「イザ兄何で嘘吐いたの? 私じゃないのにっ!」
「……酷」
私とクル姉は口々にそう云った。私たちが反抗したから、もしかしたらイザ兄は怒るかも知れない……。そう思ったけれど、イザ兄は怒るどころか面白そうに私たちを見た。
「馬鹿だねぇ、おまえたち。俺は頭の悪い子も嫌いだよ」
そう云うと、イザ兄は私の机から降りる。其れから両の手其々で私たちの頭を掴むと、「立ってるものは親でも使えって云うだろう?」と云った。其の時のイザ兄の眼は凄く冷たくて、私もクル姉も、また何も云えなってしまう。