滋養誕生秘話(笑)
「うそ・・・」
観客が声を漏らす。意識せずに出たものだろう。皆が口をぽかんと開けていた。彼らの眼前で起きた出来事は信じられないものだった。身は細く、白さが軟弱さを表わしていた葱が、黒くて太い、頑丈さを示していた牛蒡を真っ二つにしていたのだ。これを見ていた者達誰もが「小十郎の持つ葱が白刃のごとく輝いて見えた」と熱弁した。
「―――で、分かりましたか、政宗様!」
「Ah・・・OK.分かった」
この一件後、政宗は小十郎によって半日近く小言を聞かされ続けた。小言が終わり、部屋から政宗が出て行こうとしたときだった。政宗が襖に手をかける手前で振り返った。
「小十郎、お前は葱を武器にしてもいいかもな。刀は人を選ぶって話を聞いたことがあるが、きっと野菜にも言えたことなんかも知れねぇ。だから小十郎、考えてみたらどうだ?」
そう言い残し、小十郎の答えを待たずに部屋を後にした。その後、小十郎の武器が葱に変わっていた。葱が最強の武器と謳われるまで、そう時間はかからなかった。
―完―